2009年度「近未来チャレンジ」選考過程、結果
1. 選考対象
今回の選考対象は、以下の5件である。
- Community Web プラットフォーム (サバイバル4回目 (最終回))
- 情報編纂の基盤技術 (サバイバル3回目)
- 認知症予防回復支援サービスの開発と忘却の科学 (サバイバル2回目)
- オープンライフマトリックス (サバイバル3回目)
- Wikipediaマイニングによる大規模Webオントロジの実現 (サバイバル1回目)
2. 選考基準
会場アンケートの結果に、担当の選考員の意見を加味して、来年度に残すか否かを選考する。選考の基本方針として、特に、第1〜2回目のサバイバルについては、「良いところを見る」という方針で選考する。以下に、今回採用した選考基準を示す。
<4回目のサバイバルの選考基準>
総合評価が優れている(4.0以上)であることを前提に、
- 現時点での社会的インパクト
- ゴール達成時の社会的インパクト
- 実用化へ向けた取り組み
の3つの評価項目のいずれか一つに優れた点(4.0以上)があればサバイバルとする。但し、上記の条件を満たす場合であっても、3つの評価項目に、サバイバルとするのに問題となる点(3.0未満)があれば、別途、アンケートのコメントの中身、選考員の意見を検証して決める。
<3回目のサバイバルの選考基準>
総合評価が優れている(4.0以上)であることを前提に、
- 現時点での社会的インパクト
- ゴール達成時の社会的インパクト
- 実用化へ向けた取り組み
の3つの評価項目のいずれか一つに優れた点(3.5以上)があればサバイバルとする。但し、上記の条件を満たす場合であっても、3つの評価項目に、サバイバルとするのに問題となる点(3.0未満)があれば、別途、アンケートのコメントの中身、選考員の意見を検証して決める。
<1〜2回目のサバイバルの選考基準>
総合評価が優れている(4.0以上)であることを前提に、
- 現時点での社会的インパクト
- ゴール達成時の社会的インパクト
- 実用化へ向けた取り組み
の3つの評価項目のいずれか一つに優れた点(3.0以上)があればサバイバルとする。但し、上記の条件を満たす場合であっても、3つの評価項目に、サバイバルとするのに問題となる点(3.0未満)があれば、別途、アンケートのコメントの中身、選考員の意見を検証して決める。
3. アンケート集計結果
表1: アンケート結果集計
4. 選考結果および講評
- Web プラットフォーム(サバイバル4回目)
- 総合評価が優れている(4.18点)
- いずれか一つの評価項目に優れた点(4.0以上)がある。
- 最終目的達成時の社会へのインパクト・貢献の見込み(4.06点)
- サバイバルとするのに問題となる点(3.0未満)はない。
- 以上の評価から、選考基準と照らして「サバイバル」とする。
- 講評:本チャレンジ課題が取り扱う技術分野は、近年進展が目覚ましく、本提案時の研究課題の一部はすでに民間において先行して実現されているものもあり、聴講者のアンケートでの指摘もあるように、本課題として具体的に社会的インパクトを与えたかを評価することは難しい面もある。しかしながら、Web2.0やSNSといった概念やサービスが広く社会に認知される以前から、同研究領域の重要性やAI技術の適用可能性に着目し、本学会において研究コミュニティを醸成してき貢献は大きい。さらに、本チャレンジセッション参加者の中には、実際にCommnity Web
サービスを立ち上げた研究者もおり、今後もさらなる展開も期待できる。
- 情報編纂の基盤技術(サバイバル3回目)
- 総合評価が優れている(4.12点)
- いずれか一つの評価項目に優れた点(3.0以上)がある。
- 学術的観点からの評価(3.50点)、
- 現時点までの社会へのインパクト・貢献(3.25点)、
- 最終目的達成時の社会へのインパクト・貢献の見込み(3.81点)、
- チャレンジ実用化に向けた取り組み(3.12点)
- サバイバルとするのに問題となる点(3.0未満)はない。
- 関係者、非関係者、平均のいずれを見ても、結果は変わらない。
- 以上の評価から、選考基準と照らして「サバイバル」とする。
- 講評:チャレンジングかつ社会的にも重要な課題に対して共通の評価用データを整備し、要素技術から着実に取り組んでいる。また、自然言語処理、情報可視化等様々なバックグラウンドを持つ専門家が集まり有益な議論をする新たな研究コミュニティが形成されてきており評価できる。一方、聴講者アンケートでも指摘されているが、実用化に向けた取り組みについては、最終年度(4回目のサバイバル)に向けどのような目標を設定されているのか若干判然としない部分があるのも事実である。必ずしも実用化に繋がることが必要条件ではないが、将来の社会展開にあたりどのような具体的シナリオを想定し、最終年度では何をどこまで達成しようとしているのか明快にした上で、さらなる取組みに期待したい。
- オープンライフマトリックス(サバイバル3回目)
- 総合評価が優れている(4.43点)
- いずれか一つの評価項目に優れた点(3.0以上)がある。
- 学術的観点からの評価(3.93点)、
- 現時点までの社会へのインパクト・貢献(3.95点)、
- 最終目的達成時の社会へのインパクト・貢献の見込み(4.30点)、
- チャレンジ実用化に向けた取り組み(3.50点)
- サバイバルとするのに問題となる点(3.0未満)はない。
- 関係者、非関係者、平均のいずれを見ても、結果は変わらない。
- 以上の評価から、選考基準と照らして「サバイバル」とする。
- 講評:シーズ開発から応用技術、社会展開といった従来のウォーターフォール型の研究開発ではなく、実社会(応用ドメイン)での適用によって得られた知見を要素技術の洗練にフィードバックし、PDCAサイクルをまわす、いわゆるモード2型の研究開発に着実に取り組み、成果を出している点は非常に評価できる。一方、聴講者アンケートでは、本チャレンジ課題におけるコア技術がベイジアンネット中心である点、また本チャレンジセッションでの研究発表者が提案者のプロジェクト関係者中心である点が指摘されている。また、実社会への展開については、技術的課題のクリアだけでは解決できない制度面課題の課題も存在する。これらの諸課題を短期間に一つの研究グループ・組織ですべてクリアすることは困難であるが、最終年度に向けて、AI研究コミュニティ全体で成果や問題認識を共有することは、非常に重要であると考えられる。本チャレンジ課題のよりオープンな成果の展開、共有等の取組みに期待したい。
- 認知症予防回復支援サービスの開発と忘却の科学(サバイバル2回目)
- 総合評価(4.69点)が優れている
- いずれか一つの評価項目に優れた点(3.0以上)がある。
- 学術的観点からの評価(3.60点)、
- 現時点までの社会へのインパクト・貢献(4.08点)、
- 最終目的達成時の社会へのインパクト・貢献の見込み(4.69点)、
- チャレンジ実用化に向けた取り組み(3.69点)
- サバイバルとするのに問題となる点(3.0未満)はない。
- 関係者、非関係者、平均のいずれを見ても、結果は変わらない。
- 以上の評価から、選考基準と照らして「サバイバル」とする。
- 講評:近い将来超高齢化社会となる我が国において、本チャレンジ課題のような高齢者福祉への分野横断的な取組み非常に重要である。近年、医療分野では、
Evidence Based Medicine(EBM)
の考え方が一般的となっているが、介護福祉の現場では、現場の属人的知識に基づくケアが実践されているのが現実であり、そもそもどのようなケアに対してどのような効果があったのか客観的データを蓄積する方法論が確立しておらず、本課題は、野心的かつ社会的インパクトの高い。一方、医療、福祉への新しい情報技術の適用・転換に関しては、介護従事者の情報リテラシーの問題や(法)制度的な面が存在することも事実であり、これらの諸問題についての体系的知識、方策の整理も重要であると思われる。今後のさらなる取り組に期待したい。
- Wikipediaマイニングによる大規模Webオントロジの実現(サバイバル1回目)
- 総合評価が優れている(4.20点)
- いずれか一つの評価項目に優れた点(3.0以上)がある。
- 学術的観点からの評価(3.33点)、
- 現時点までの社会へのインパクト・貢献(3.28点)、
- 最終目的達成時の社会へのインパクト・貢献の見込み(4.07点)
- サバイバルとするのに問題となる点(3.0未満)がある。
- チャレンジ実用化に向けた取り組み(2.80点)
- 関係者、非関係者、平均のいずれを見ても、結果は変わらない。
- 以上の評価から、選考基準と照らして「サバイバル」とする。
- 講評:Wikipediaからの構造化知識の獲得および利活用は、Semantic
Web研究において近年最も注目されているトピックであり、本チャレンジ課題の先見性および重要性は高く、着実に成果も出ている。一方、アンケートの指摘にもあるように、Web(Wikipediaを含む)を対象として研究は、非常に進展が早く、本チャレンジ課題が果たして最終年度(4年後)まで研究課題として成立しているか懸念されることは否定できない。またオントロジはある程度アプリケーションを前提として構築、チューニングしたものでないと利活用しにくいということもまた事実である。以上を鑑み、チャレンジ実用に向けた取り組みは、選考基準(3.0)よりも低かったものの、最終的に実現された場合のインパクトは大きいため、「良い面をみる」という方針に基づき、「サバイバル」とした。今後のさらなる取組みに期待したい。
2009年度人工知能学会全国大会「近未来チャレンジ」アンケートコメントのリスト
Community Web プラットフォーム(サバイバル4回目)」へのコメント
- 完成度よりも視点や応用領域の新しさを重視してほしい。
- このセッションの発表から生まれたかわかりませんが、
SpySeeが生まれたのは大きな成果だと思います。
- 水玉つぶしから研究アイディアを広めたのはおもしろかった。
- ピクシーは面白そうだけど実現できるのかなと思った。
- CommunityWeb全体として何をやりたいのかわからなかった。
- 5年間終わりましたが、大変よかったと思います。Web2.0も一般的になりました。
- 必ずしも学術性の強い研究ばかりではないかもしれませんが、高度なものも多くあり、勉強になります。
- 現実問題と関連付けた問題意識からはじまった研究が多いと感じました。
- 毎年個性的で興味深いお話が多く、楽しみにしております。
- このチャレンジ以外の web 研究との境界がわからないため、ここでされたことのみで見ると、ふつう。
- Webの進展全体がめざましく、このチャレンジ自体を正当に評価しづらい。
- もはやほうっておいても Web は進んでいくと思われる。とりかかりが早かったことが勝因でここまできたが。
- 発表内容のテーマがかなり分散している気がしました。
「情報編纂の基盤技術(サバイバル3回目)」へのコメント
- 社会的ニーズへの考察をするどくしてほしい。
- サバイバルという語感は挑戦的で響きがよいのでもっと緊張感をもってやってほしい。
- まだテストベッドでの実験であるが、今後様々な事例への応用成果に期待したい。
- 技術的なレベルは向上しているが、実際に使用する人が何を求めているのか?という発表がなかったように思った。
- データから可視化が簡単に行えることは素晴らしいと思う。しかしデータから全体の変化を想像する能力が乏しくなるのではないかと少し気になる。
- 全てとは言えないが興味深い発表が見られた。
- バラエティのある研究発表が集まっており有益な議論の場となっている。
- チャレンジングな課題であるのですぐに実用可能な成果が出ているとはいいがたい部分もある。しかし情報の見せ方の整理なども含め着実に進んでいると考える。
- 情報編纂の技術は今後の情報爆発に対応するために必要な技術であるが、ある一定のレベル以上の使いやすい形態で使えるようにならないと効果が出にくい。ただそのための基盤技術を整備することは重要である。
- 何となく小さな問題に集中しているものもあるように思えますが気のせいでしょうか?やはりそれをつぶさないといけないのでしょうか?うまく見せないと知らない人が見たときに小さなことをしていると思うかも知れません。
- 大変難しい課題に取り組んでいると思います。そろそろ中間点なのでラストスパートを目指してがんばって下さい。
- かなり難しい課題であることは参加してわかりました。それだけにサバイバルしてほしいです。
- 質問も盛んで今後進めていく上で得るところが多かった。
- 共通データセットを用意して、精度の定量的評価をしている点は評価できるが、個別の研究制度はまだまだ改善の余地があるように思った。
- セッションタイトルの「基盤技術」については疑問が残る。発表内容、施行としては実現を目的としていると感じた。
- 編纂の本質的な部分よりは抽出と可視化が今のところ中心なように感じた。抽出技術の効率化やより効果的可視化の方が「基盤」としてはしっくりくると思います。
- 話としては面白かった。
- 今後の研究内容を検討している中で、これまで触れていなかった分野の話を聞けて刺激を受けた。
「オープンライフマトリックス(サバイバル3回目)」へのコメント
- 取組みは非常に意義がある。
- 学術的に一般化したり再利用可能な手法や技術が出てきたり、今後、他の社会応用に広がっていくとさらに学術的価値や意味を高めることになると考えている。
- 本チャレンジで扱っている研究テーマは、実用化に踏み込むことで新たに生まれる研究対象があり、徐々にそういった取り込みが出てきていると考えている。
- 医療・安全に関する発表を聴いたが、データマイニングで得られた知見から医学上の新しい発見があると面白いと感じた。
- 方法的にはベイジアンネットの適用が多く、他種法があまりない。信頼性の点からは、各ドメインの専門家による評価がもっと必要。
- 実用化には様々なハードルがある。特に各ドメイン(例えば医療)専門家が分析結果を使って現在の業務行為を変えてみようと思わせる必要がある。
- データの収集は面白いが、この学会では肝心のデータ解析が今ひとつな印象。
- 本気で実用化を目指すならデバイスや収集性で可能(コスト含む)なデータのみにこだわってマイニングや予測の方もがんばって欲しい。幼児関係はマーケットも見えづらい。
- 企業の参加が少ないのが危機的であるが、異分野に乗り込んで行ってでも、大きく花開いて欲しい。
- 行動を確率的にモデル化する方法を確立している。
- 非常に難しい日常生活を定量化している研究で興味深かった。
- 統計的手法によって実用化されている実例も有り、非常に興味深い内容も有りました。
- 非常に実社会への良い影響が期待できると思います。
- 産総研関連の方からの発表ばかりだったのでそうならないように工夫頂く必要があると思いました。
- 研究としてはオリジナリティがない。
- ベイジアンネットに頼りすぎ。役に立つのかわからない。
- セッションが重なったため一部しか聞けませんでしたが、モード2のアプローチがすばらしいと思いました。応援してます。
「認知症予防回復支援サービスの開発と忘却の科学(サバイバル2回目)」へのコメント
- 認知症に対する有効性のある予防・支援方法が生み出されれば社会的に大きなインパクトがあると思う。ただし、学術的裏付けがやや弱いかもしれない。(評価軸の設定が難しい問題であるが)
- もっと発表内容が多様であるべきではないか。
- 長期的に取り組むべきである。野心的発表をみたい。
- 専門家でないのでわからない。学会だから必ず学術的妥当性を厳しく求めなければならないとするのはどうか?信頼性は必要であるが。
- 専門家でないのでわからない。学会だから必ず学術的妥当性を厳しく求めなければならないとするのはどうか?信頼性は必要であるが。
- 人工知能学会の学会運営はよくなされている(特に医学系と比較して)。
- 学術的な発表と実践的な発表がバランス良く配されている。
- 実用的な取り組みとポテンシャルの大きな基礎研究があってバランスが良い。
- 次回は発表できればと思います。
- もっとがんばって下さい。
- 卒業目指してがんばって下さい。
- 多分野からの様々な考え方を知ることができる。
Wikipediaマイニングによる大規模Webオントロジの実現(サバイバル1回目)」へのコメント
- チャレンジセッションは長すぎる。パラレルな別のセッションを見るので、どうしても全体が見えない。残念である。
- セッションタイトルの「大規模オントロジー」はかなり絞ったテーマだと思いますので、今後はこのテーマフォーカスするのでしょうか。現状は
wikipediaを使った研究というくくりで集まっている印象です。
- やってみました、作ってみましただけでなく、サンプル抽出に対して定量的な評価がほしい。
- 各研究の成果の統合や公開をプロジェクトとして取り組んでほしい。
- 面白いテーマは多いかまだこれからに期待という感じ。
- 使ってもらうまでにするにはこれからが大変だと思う。
- AIのアプリとして重要なのでがんばってほしい。