2016年度「近未来チャレンジ」選考過程・結果
1. 選考対象
今回の選考対象は,以下のサバイバル5件である(ニューチャレンジはなし).
[サバイバル]
- 異種協調型災害情報支援システム実現に向けた基盤技術の構築 (サバイバル4回目)
- クラウドベースのロボットサービスの統合基盤 (サバイバル3回目)
- 認知症の人の情動理解基盤技術とコミュニケーション支援への応用 (サバイバル3回目)
- コト・データベースによるモノ・コトづくり支援 (サバイバル3回目)
- 世界価値観データベースに基づく世界消費者の把握(サバイバル1回目)
2. 選考基準
会場アンケートの結果に,担当の選考員の意見を加味して,来年度に残すか否かを選考する.選考の基本方針として,第1〜2回目のサバイバルについては,「良いところを見る」という方針で選考する.以下に,今回採用した選考基準の詳細を示す.
[1〜2回目のサバイバルの選考基準]
総合評価が優れている(4.0以上)ことを目安に,社会の貢献の観点(学術的観点以外)の以下の3つの評価項目のいずれか1つに,優れた点(3.0以上)があればサバイバルとする.
- 現時点での社会的インパクト
- ゴール達成時の社会的インパクト
- 実用化へ向けた取り組み
ただし,上記の条件を満たす場合であっても,3つの評価項目に,サバイバルとするのに問題となる点(3.0未満)があれば,別途,アンケートのコメントの中身,選考員の意見を検証して決める.
[3回目以降のサバイバルの選考基準]
総合評価が優れている (4.0以上) ことを目安に,社会の貢献の観点(学術的観点以外)の以下の3つの評価項目のいずれか1つに,優れた点(3.5以上)があればサバイバルとする.
- 現時点での社会的インパクト
- ゴール達成時の社会的インパクト
- 実用化へ向けた取り組み
ただし,上記の条件を満たす場合であっても,3つの評価項目に,サバイバルとするのに問題となる点 (3.0未満) があれば,別途,アンケートのコメントの中身,選考員の意見を検証して決める.
3. サバイバルセッションアンケート集計結果
表1: アンケート結果
図1: アンケート結果グラフ (サバイバル)
4. サバイバルセッション選考結果
・S-1: 「異種協調型災害情報支援システム実現に向けた基盤技術の構築」(サバイバル4回目)
- 総合評価(4.4)はサバイバル基準の目安(4.0)を上回っている.
- 社会貢献の観点(学術的観点以外)の3つの評価のいずれか一つの評価項目に優れた点(3.5以上)がある.
学術的観点からの評価(3.9点),現時点での社会へのインパクト・貢献(3.6点),最終目的達成時の社会へのインパクト・貢献の見込み(4.3点),チャレンジ実用化に向けた取り組み(3.4点).
- サバイバルとするのに問題となる点(3.0未満)はない.
研究が実用的なレベルに到達したことから,実用化への具体的な展開,社会への広い認知などが期待されており,
2017年度の卒業セッションにおいて,ぜひ取り組みを広めて頂きたい.
アンケート集計の結果,全項目において基準を満たした.よって「卒業」とする.
・S-2: 「クラウドベースのロボットサービスの統合基盤」(サバイバル3回目)
- 総合評価(3.9)はサバイバル前提基準の目安(4.0)をやや下回っている.
- 社会貢献の観点(学術的観点以外)の3つの評価のいずれか一つの評価項目に優れた点(3.5以上)がある.
学術的観点からの評価(3.5点),現時点での社会へのインパクト・貢献(3.5点),最終目的達成時の社会へのインパクト・貢献の見込み(4.1点),チャレンジ実用化に向けた取り組み(3.2点).
- サバイバルとするのに問題となる点(3.0未満)はない.
近年のロボットブームもあり,社会的貢献において期待されている.実用化に向けた取り組みは,及第点であるが,本プラットフォームを活用した実用面でのメリットをわかり易く示して頂ければと思う.
集計の結果,総合評価が若干目安の点数を下回っているが,ロボットの実用化に対するインパクトや期待を加味し,来年度,テーマ卒業に向けてプラットフォームの完成度を高めると共に,実用化のインパクトを明確化することを条件に,「サバイバル」とする.
・S-3: 「認知症の人の情動理解基盤技術とコミュニケーション支援への応用」(サバイバル3回目)
- 総合評価(4.9)はサバイバル前提基準の目安(4.0)を上回っている.
- 社会貢献の観点(学術的観点以外)の3つの評価のいずれか一つの評価項目に優れた点(3.5以上)がある.
学術的観点からの評価(4.4点),現時点での社会へのインパクト・貢献(4.5点),最終目的達成時の社会へのインパクト・貢献の見込み(4.9点),チャレンジ実用化に向けた取り組み(4.0点).
- サバイバルとするのに問題となる点(3.0未満)はない.
近未来チャレンジらしい非常にチャレンジングなテーマを着実に進めている.身近でありながら正しい知識を得る機会が得難い問題であるが,事例ワークショップによって参加者への知識を共有する工夫もなされている.2017年度,最終年度となるが,テーマ卒業に向けて取り組んできた実績,知見,ツールなど,テーマ成果を広くアピールできるようにまとめあげてください.
集計の結果,全項目において基準を満たした.よって
「サバイバル」とする.
・S-4: 「コト・データベースによるモノ・コトづくり支援」(サバイバル3回目)
- 総合評価(4.5)はサバイバル前提基準の目安(4.0)を上回っている.
- 社会貢献の観点(学術的観点以外)の3つの評価のいずれか一つの評価項目に優れた点(3.5以上)がある.学術的観点からの評価(4.0点),現時点での社会へのインパクト・貢献(4.1点),最終目的達成時の社会へのインパクト・貢献の見込み(4.7点),チャレンジ実用化に向けた取り組み(3.7点).
- サバイバルとするのに問題となる点(3.0未満)はない.
教育,医療,製造業などの現場から専門家が集い,実践的に取り組みを進めている.今回の発表でも,昨年に引き続き参加者を巻き込んだミニワークショップを開催して,この支援の必要性を参加者全員で共有できていた.次年度,最終年度に向けて,開発した技術の実証・フィードバックを重ね,インパクトのある成果を期待しています.
集計の結果,全項目において基準を満たした.よって
「サバイバル」とする.
・S-5: 「世界価値観データベースに基づく世界消費者の把握」(サバイバル1回目)
- 総合評価(4.3)はサバイバル前提基準の目安(4.0)を上回っている.
- 社会貢献の観点(学術的観点以外)の3つの評価のいずれか一つの評価項目に優れた点(3.0以上)がある.学術的観点からの評価(3.5点),現時点での社会へのインパクト・貢献(3.6点),最終目的達成時の社会へのインパクト・貢献の見込み(4.2点),チャレンジ実用化に向けた取り組み(2.9点).
- サバイバルとするのに問題となる点(3.0未満)は,チャレンジ実用化に向けた取り組み.
今回初年度のサバイバルセッションとなった.まずは様々な意見・アイディアを集めてテーマをもんでいくことは重要である.今回のセッション開催を受けて,徐々にテーマの核を絞り,実用化に向けたマイルストーンを構築していっていただきたい.
集計の結果,チャレンジ実用化に向けた取り組みが,基準点を下回っているが,初年度であり,テーマとしての方向性を決める段階であり,2017年度以降方向性を徐々に定め,課題設定から実用化への取り組みまで着実に進めていってほしい.よって
「サバイバル」とする.
付録: 各テーマへのコメント
各テーマへのコメント ※誤字・誤植など元のコメントの一部を修正しております.
・S-1: 「異種協調型災害情報支援システム実現に向けた基盤技術の構築」
- 【学術観点からの評価】
- 面白かったです
- 他データとの連携を考慮した,地理データの構築など地道な取り組みと検証が評価できる.
- RT(リツイート)による分類の合理性はかなりよさそう.
- 誰のための研究なのか,対象がわかりづらい発表が多いのが気になった.研究自体は面白い内容が多く,実用的な可能性は感じた.
- 非常に新規性があると思われる.
- 1時間ごとのバッチ処理をしているが,おそらくストリームの考え方を導入するのがよいのではないか?RT重複率という,すぐれてシンプルなアルゴリズムを採用しているのでリアルタイム処理にできそう.
- 【社会貢献の観点からの評価】
- さらなる進歩を期待しています.
- SNS等の分析は一定の納得度があるが,有用性の観点の評価がほしい.
- データベースをウェブで公開し,既に活用可能な状況になっている.
- 各システムが実際に普及するレベルに完成すれば役立つ
- 多機能にすることは重要だが,最も大切なのはいかに短時間で次の行動につながる情報網にアクセスできるかその視点がもう少しあれば,より発展できると思った.
- 実用システムが開発されている.
- 実用化のために自治体を巻き込むのが良いのではないか?直接市民に情報提供することにこだわらず自治体担当者がその責任で情報発信するときの入力の一つになる.例えば,水害時に,増水浸水情報をあつめて避難指示をだす目安にする.
- 【全体としての評価】
- 社会貢献的な意味合いからも重要なテーマである.4年目というところから実社会への影響,インパクトを与える戦略を期待したい.
- 近未来チャレンジでのサバイバルを利用して公に広がっていくとよい.
- 有意義な時間を過ごすことができました.ありがとうございました.
- 熊本地震も起こった今,人工知能やこういった技術が最も社会にわかりやすい形でアピールでき,貢献できるチャレンジだと思う.
- 来年の成果が楽しみであり,サバイバルすべきである.
- 災害時のみ強いユーザーの出身は調査したか?公式・自治体の災害情報アカウントということはないか?災害前後の影響力を素直に縦横にして相関を見たかった.
・S-2: 「クラウドベースのロボットサービスの統合基盤」
- 【学術観点からの評価】
- 各発表者がそれぞれの基盤を使っているようで統合基盤がどのように確立されてくるのか疑問である.個々の話は意義深いと思う.
- 論文化も確実にされている.
- 全体的に実証実験を行い,評価してサービスの妥当性を高めてほしい.
- プラットフォームの話が多いが,それがどう公開されるのかに興味がある.
- 【社会貢献の観点からの評価】
- これからも続けてゆくべき.
- 毎年,インパクトある実証実験を進めている.
- ネットワークを介したロボットならではの問題がありそれによく対処している.
- すでに実用化されているものなどもある.
- ロボットが実現されると社会へのインパクトはある.そのうちのどの程度をこのプロジェクトが解決するのかよくわからない.
- ロボットである意味をもう少し加味すべき.
- 水中ロボットでブレイクスルーのある技術開発を.
- 社会へのインパクトは将来になればなるほど大きくなると思います.
- 知能の面が最近強調されているが,やはり実体験と結びつくことでUXが満たされるので社会貢献は大きい.海中資源の利活用に役立つ
- 【全体としての評価】
- ぜひ続けていくべき.
- さらに効果ある実証実験を進めていただきたい.
- 今のロボットブームを終わらせないように実用的なロボットのアプリケーションを見つけてください.
- 具体的なシステムイメージが欲しい.セッションがやや内輪ノリに感じた.
- 遠隔訪問は意味がない.コストを考えれば「スマカメ」で充分.
- 技術的なデファクトスタンダードとなる様,普及に努めてほしい.
・S-3: 「認知症の人の情動理解基盤技術とコミュニケーション支援への応用」
- 【学術観点からの評価】
- 医療的見地をベースにしながら,多面的に現場での検証を行おうとされている.
- どのように検証していくかの進め方がよく分かりませんでした.
- 現場ベースでフィードバックをもらえ改良していくことが出来ている.分析方法システムの評価について従来手法との比較,定量的な評価が必要だと感じた.
- CS・精神科医の先生方両者により評価されているため信頼性の高さを感じられた.
- 定量化の難しい問題に対して視点を工夫して取り組んでいる.
- 【社会貢献の観点からの評価】
- 現場との連携が深くなされており広く影響力のある成果が得られることを期待する.
- 社会的インパクトには最もインパクトの高いテーマと考えられる.認知症以外への応用可能性も高い.
- 認知症に向き合う全ての人に共有し,即実践してほしいと心から思うとともに,データを増やしていくことでより広範囲でこの研究の成果を活かしていきたい.社会へのインパクトのあまりの大きさを改めて感じました.
- 介護プロセスの中に開発された技術が恒常的に入っていくと社会へのインパクトがさらに大きくなると思う.
- 実際の介護現場ではプライバシーの視点からカメラを嫌がる施設も多く,またウェアラブルセンサも拘束とみられるため好まれませんでした.(あくまでも私の会社では)
- 【全体としての評価】
- 技術面でのさまざまな試みが取り組まれていて大変興味深い.評価面が難しいと思われるが今後の発展に期待したい.
- がんがんがんばってほしい!!
- 分かりやすくかつ重要な取り組みだと思いました.
- 非常に有意義なセッションでした.ありがとうございました.
- 認知症治療病棟で働いています.患者さんのためにもさらなる技術発展することを願います.
- 社会全体で投資,サポートしてくべきテーマ.ぜひチャレンジしてほしい.
- 複雑な実用現場に果敢にチャレンジすることは重要だと思います.今後もサバイバルしてください.
・S-4: 「コト・データベースによるモノ・コトづくり支援」
- 【学術観点からの評価】
- 学術的にはまだ広がりが難しいかと考えられる.
- 科学にしにくい対象を学術・技術にしようとチャレンジしている.データとして客観化しつつある.
- 非常に評価の難しいテーマだと思うが可視化の効果を定量的に評価する枠組みへの取り組みも期待したい
- 【社会貢献の観点からの評価】
- 実用化が楽しみなものが多い!!研究を進めていかなければならないものもあるが面白そうである.
- 問題そのものが,社会的インパクトが大きくPDCAを回すアプローチなので初期の制度でも十分実用的.
- 現場でのインフラ構築とその評価への取り組みを実際に取り組まれている.今後の進展に期待する.
- 【全体としての評価】
- AI技術によってよりよい社会が実装することを期待しています.今後の進展に期待しています.
- アカデミック分野に対しての標準データ・ツールを提供するなどして最終成果を出してほしい.
- フィールド通用からのフィードバックによる発展を期待したい.
・S-5: 「世界価値観データベースに基づく世界消費者の把握」
- 【学術観点からの評価】
- 様々な見地からの発表があり興味深い反面,理論的分析検証が難しそうだと感じた.
- このテーマに必須な大黒柱となる研究テーマを作ってください.
- (5段階評価の点数について,)定量的に評価できないため.
- 今回聴講させていただいたが消費者の動向を様々な観点からデータ分析しており,学術的に広がりが期待できるものと感じた.
- 大規模調査データ/ソーシャルビッグデータ,人流データなどをモデリングするために適切な分析がなされている.
- データが妥当ではない.
- ”やってみた”という内容が多く,結果に対する考察や検証が希薄に感じた.
- 理系の学会で発表するには背景理論が直観的に感じた.理解,納得はできるが客観性にかける.データサンプリングの妥当性をもっとしっかり説明するといいかもしれません.
- 【社会貢献の観点からの評価】
- いろいろなアイディアがでているので今後の実世界への適応検証に期待したい.
- 徐々に具体的な実用化プランの検討を進めてください.
- 代理店は必要なくなるのでは?
- 購買行動に関して様々なデータマイニングの取り組みが企業でも注目され実用化が進められていることに対して興味深く感じた.一方でデータの収集の点で優位な企業との連携がますます重要なものとなってくると考えています.
- 価値観の個人差や集団差に基づく実際のマーケティング活動に有用と考えられる.
- 妥当性,信頼性の確保が必要.研究の課題設定の深掘りが必要.
- 人工知能との関係がどの発表もよくわからなかった.今のままだとただの意見どまりで実際の利用イメージがもてない.
- 【全体としての評価】
- まだまだ問題は山積みである!!
- 価値観という観点から研究に取り組んでいることとして,対象として何をテーマにするべきかと言う点についてより深い議論が聞きたい.
- テーマ内の分散がむしろ興味深い.来年度の進捗も期待できるのでぜひサバイバルしてほしい.
- 企業の研究開発が今困っているのは経営層がビッグデータさえあれば山のように儲け話があると勘違いしていること.こういった取り組みが実用化されれば経営層とも議論しやすくなる.人に注目される工夫をすることも大切です.人工知能という場をうまく利用してぜひ実用化してほしい.とても面白かったです.
以上