特別セッション
「脳科学応用とAI」
JSAI2011では,特別セッション「脳科学応用とAI」を開催いたします.
- 日時:2011年6月1日 13:45-16:30(165分)
- 会場:アイーナホール
- 講演者:
- 長谷川 良平(産業技術総合研究所)
- 加納 慎一郎(東北工業大学)
- 西條 辰義(大阪大学)
- 沼尾 正行(大阪大学)
- 概要:
脳科学分野は,信号処理技術,イメージング技術やバイオテクノロジーを応用した計測技術の進歩により,20年前のニューロブーム当時に比べて格段に進歩しています.こうした背景からBMI,リハビリテーション,神経経済学などの新しい応用分野が見え始めており,今後は,AI分野と脳科学との接点が大きく拡大してゆくと考えられます.
そこでJSAI2011では,4名の講演者を招き,レクチャーとパネルディスカッションからなる特別企画を開催します.当セッションでは,まず冒頭に産総研の長谷川良平先生による脳科学の基礎から応用までをカバーした基調講演を行います.その後,東北工大の加納慎一郎先生と大阪大学の西條辰義先生から、脳科学に基づく応用事例をそれぞれご紹介いただきます。最後に,3先生に大阪大学の沼尾正行先生を加えたパネルディスカッションを行い,脳科学応用のこれまでと今後について考えます.
基調講演
- タイトル: 脳を理解するニューロサイエンスから脳を活用するニューロテクノロジーへ
- 講演者: 長谷川 良平(産業技術総合研究所 ヒューマンライフテクノロジー研究部門 ニューロテクノロジー研究グループ)
- 概要:
今,世間では空前の脳ブームが到来している.書店にはタイトルに「脳」がつく本が平積みにされ,ネットでは「脳波トイ」なるおもちゃまで売られる時代になった.一方,高齢化や核家族化の進む日本社会では,身体機能が全般的に低下した高齢者が増えるだけでなく,疾病や事故によって脳や身体に重度の障害を受けた人々に対し,脳と機械を直結するブレイン-マシンインターフェース(BMI)による「生活の質(QOL)」向上技術の開発が期待されている.本講演では,このような基礎的脳科学(ニューロサイエンス)から脳科学の応用技術の開発(ニューロテクノロジー)への転換が進むようになった社会的・技術的背景を探るとともに,ニューロテクノロジーの開発事例として演者がこれまで取り組んできた脳波による実用的意思伝達装置「ニューロコミュニケーター」などについても紹介する.
事例紹介講演1
- タイトル: 脳とコンピュータをつなぐ:非侵襲脳活動計測によるBCIの現状と展望
- 講演者: 加納 慎一郎(東北工業大学 工学部 知能エレクトロニクス学科)
- 概要:
ユーザの脳活動から本人の意図を検出するBCI(brain-computer interface)に関する研究が注目されるようになって久しい.BCIは,ユーザにある課題(例えば,提示刺激に対する選択的注意,四肢の動作のイメージなど)を行うことを求め,その際のユーザの脳活動をEEG(脳波)やNIRS(近赤外分光法)などの非侵襲的手法によって計測し,それから情報を抽出することでユーザの意図を推定する手法である.発話や四肢の動作などの通常のコミュニケーション手段を用いることなく意図を外界に知らせることを可能にする本手法は,重篤な四肢麻痺患者などへの適用が期待されている.また,ユーザからの情報送信に加えて,計測された脳活動信号をユーザにフィードバックすることにより,外界から脳へ働きかけを行うための研究も始まっている.本講演では,BCIの原理と研究事例を紹介し,今後のBCIの展望について議論する.
事例紹介講演2
- タイトル: 囚人のディレンマの解決をめざして ?経済行動とfNIRS解析?
- 講演者: 西條 辰義(大阪大学 社会経済研究所)
- 概要:
囚人のジレンマにおける被験者実験において被験者がほぼ100%協力するメカニズムの開発に成功している.メイト・チョイス・メカニズムである.被験者がどのように行動しているのかに関わるゲーム理論的な仮説は複数(ナッシュ均衡,サブゲームパーフェクト均衡,進化論的に安定的な均衡など)存在し,実験データから「弱支配された戦略のバックワード消去」のみがサポートされている.この行動原理と脳機能計測法の一つである近赤外光脳機能イメージング装置(fNIRS)を用いた実験解析の関連がどのようになっているのかが本報告のテーマである.さらには,今回の研究を通じて,神経経済学実験を行う上での脳機能計測の問題点やその対処法などについても検討したい.
パネルディスカッション
- パネラー:
- 長谷川 良平
- 加納 慎一郎
- 西條 辰義
- 沼尾 正行(大阪大学 産業科学研究所 知能アーキテクチャ研究分野)
- ファシリテータ
- 森川幸治
- 沼尾先生のご紹介と「パネルディスカッションに向けて」:
1982年東京工業大学工学部電気電子工学科卒業.1987年同大学院理工学研究科情報工学専攻博士後期課程修了.工学博士.東京工業大学工学部助手,助 教授,同大学院情報理工学研究科助教授を経て,2003年より大阪大学産業科学研究所教授,現在に至る.1989年から1990年スタンフォード大学言 語・情報研究所客員研究員.情報処理学会知能と複雑系研究会主査,代表会員,人工知能学会評議員,理事を歴任.2006年4月から2009年3月まで,日 本学術振興会学術システム研究センター主任研究員を併任.記号処理による機械学習手法の研究,特に,帰納論理プログラミング,構成的適応インタフェース (CAUI)の研究に従事.
CAUI は,人の感じ方に適応して,コンテンツを生成する.機械に人の感じ方を伝えるために,意味差分法によるアンケートを用いてきたが,最近は脳波や生理信号, 姿勢などの多面的な情報を用いることを試みている.AIは自然知能についての情報を与えてくれる脳科学を注意深く見守る必要がある.さらに,脳科学の知見 に基づいて,脳とAIをリンクする技術を構築することにより,研究の大発展が見込まれるのではないだろうか.
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オーガナイザー: 森川幸治,山川宏