合同研究会2014年の各研究会の報告です.
合同研究会2014全体概要
概要
人工知能学会では,2011年より毎年秋に,慶応義塾大学日吉キャンパスの來往舎(一部,協生館)にて10程度の研究会が参加する合同研究会を行っています.本年(2014年)もここ数年同様に,発表/聴講無料として合同研究会2014を11月20日(木)~22日(土)に開催した.今回は,三日間の中で13の研究会において93件の研究発表が行われ,その中で12件の招待講演が企画されました.
さらに今年からの新企画として,2013年度に研究会優秀賞を授賞した方々に,その研究内容をコンパクトにご講演頂く企画(研究会優秀賞記念講演)を連日午後の最初におこないました.また5つの企業にスポンサーとなっていただき,中日(21日)夜には,来往舎のファカルティラウンジで行われた懇親会の冒頭にてごあいさつ頂きました.
こうして合同研究会2014は,3日間で401名の参加登録をいただき,大盛況で終了しました.ご発表者,議論に参加していただいた方,事務局をはじめとする運営者のみなさまに感謝いたします.
企業展示
本研究会では,ゴールドスポンサーとして,NTTデータ数理システム様,構造計画研究所創造工学部様,ホットリンク様に,シルバースポンサーとして,とめ研究所,Jibe Mobile株式会社にご協力いただきました.特にゴールドスポンサーの3社様には,三日間にわたり受付前にて展示を行っていただき,研究者との交流をはかっていただきました.
研究会優秀賞記念講演
あらたな企画として,昨年度(2013年度)の研究会優秀賞受賞者に15分ずつご公演いただきました.毎日4件ずつで,3日間で12件のご講演をいただきました.異なる研究会の活動を互いに知ることができる合同研究会の特徴を活かしたこの企画に対しては,アンケート結果でも概ね好評を得られました.また事前参加登録いただいた際に,PDFの版の「人工知能学会2013年度研究会優秀論文集」をダウンロードいただきました.
11月20日(木)
経営課題にAIを! ビジネス・インフォマティクス研究会 (BI)
SIG-BIは2014年度からスタートした新しい研究会です.
経営分野における人工知能研究の発展は目覚ましく,様々な経営課題に対して取り組みが進んでいます.人工知能研究が大きな成果をあげてきた製品開発等に留まらず,企業活動における中心的課題である経営戦略,経営組織,人事管理,労働市場,会計,財務,経営意思決定,産業集積,イノベーションマネジメント,マーケティング,企業情報システム,サプライチェーンマネジメント,知識マネジメント等といった,経営分野における先進的な取り組みを人工知能研究の観点から統合的に議論する場として,第1回の研究会を,この合同研究会で開催することができました.
基調講演1件を含む発表件数11件に加えて,統計数理研究所の椿広計先生から「ビジネスへのデータ科学的接近と知の共有」と題した招待講演をいただき,50名を超える参加者にお集まりいただきました.この場を借りて御礼申し上げます.第2回は,宮古島で3月16日に開催することが決まりました.
多くの方のご参加をお待ちしています.(詳細はhttp://sig-bi.jpを御覧ください.)
社会におけるAI研究会(SAI)
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社会におけるAIチャレンジ研究会では,合同研究会の初日である2014/11/20 (木)に「CHIDRI:異種協調型災害情報支援システム実現に向けた基盤技術の構築」特集として研究会を開催した.本テーマは,全国大会での近未来チャレンジセッションの一つであり,ここ3年合同研究会では同テーマと連携して行っている.発表は全5件でうち3件が本テーマと関連ある内容での発表であった.
奥村らによる『診断支援プラットフォームと感染症サーベイランス』では,感染症のパンデミック抑止のための早期発見システム構築に関する知見に関して議論し,本システムは災害時における情報システムの構築・活用と類する問題を抱えている.内種らによる『都市交通シミュレーションによる交通解析』は,交通シミュレーションの並列化・高速化を議論しており災害時の交通システムの復旧には欠かせない技術である.さらに,廣川らによる『復旧・復興期における地域コミュニティ再建のためのイベント設計と支援技術』では災害後の避難生活からのコミュニティ再建に関して議論しており,災害後の早期復旧を視野にいれるCHIDRIでは必要な議論である.本資料は,社会におけるAI研究会のHPにて公開している.
次回は,3月1日から4日までルスツにて開催される「社会システムと情報技術研究ウィーク in ルスツ(WSSIT2015)」での連続開催のうちの一つとして開催される.
知識ベースシステム研究会(KBS)
第103回知識ベースシステム研究会は,11/20(木)に開催されました.「Web情報処理」をテーマに,ネットワーク分析やソーシャルメディアに関する研究に加え,概念ネットワークや道徳判断,小売り,観光,医療などに関する研究など,全部で9件の発表が行われました.また,60名ほどの参加者があり,理論的な内容から実データを対象とした実践的な応用まで,幅広い研究発表に対して非常に活発な議論が行われ,当該分野のすそ野の広がりを感じさせる会議となりました.
セマンティックウェブとオントロジー研究会(SWO)
今回で第34回となるセマンティックウェブとオントロジー(SWO)研究会は,「オープンデータとセマンティックWeb技術」を特集テーマとして開催しました.オープンデータは,データを“誰でも自由に利用できる形で公開する”取組みとして世界的に注目され,政府や自治体が管理する公共データ,ライフサイエンス分野を中心とした学術情報,各種文献・書誌情報など,多くのデータがオープンデータとして公開されています.
国内では,政府や自治体の取組みに先駆けて,Linked Open Data(LOD)チャレンジ(https://www.lodc.jp/),アーバンデータチャレンジ(UDC, http://aigid.jp/?page_id=421)
をはじめとした,オープンデータを推進するためのコミュニティ活動が行われています.そこで本研究会では,アーバンデータチャレンジ実行委員会の瀬戸寿一氏(東京大学空間情報科学研究センター)による「地理空間情報におけるオープンデータ化とその動向」,LODチャレンジ実行委員会の高梨益樹氏(富士通株式会社)による「データ活用ビジネスから見たオープンデータ」,という2つのオープンデータに関する招待講演を行いました.瀬戸氏の講演では地理空間情報(GIS)分野を中心に国内外のオープンデータに関わる様々な取組みが紹介され,高梨氏の講演ではオープンデータが今後のデータ活用ビジネスにどのように活かされるのかについて富士通での取組みを例に議論されました.共にフロアとの活発な質疑応答が行われ,有意義な招待講演となったと思われます.
一般講演では,オープンデータに関する研究3件に加え,オープンデータ公開の基盤技術としても用いたれるRDFデータベースやその検索技術に関する研究3件,および,データにセマンティクスを与える為のオントロジー技術に関する研究2件が発表され,興味深い議論が多くなされました.また本研究会が中心テーマとしているセマンティックウェブ技術に関するトップカンファレンスISWC(International Semantic Web Conference)が2016年に神戸で開催されることが決定したという案内が,本研究会顧問の武田英明氏(国立情報学研究所)からありました.
今回の研究会にご参加頂きました皆様にお礼を申し上げると共に,今後も引き続き,本研究会の活動へのご協力をお願い致します.
11月21日(金)
知識・技術・技能の伝承支援研究会(KST)
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知識・技術・技能の伝承支援研究会(SIG-KST)は21日(金)に開催され,4件の一般講演と総合討論が実施された.一般講演では,システム開発におけるノウハウ抽出,ネットショッピング販売履歴のデータ分析,社内SNSの動向紹介とデータ分析基盤の構想,過去のSIG-KSTにおける講演内容の分類と分析について,各研究開発内容の紹介と活発な議論が行われた.また,22(土)には身体知研究会との共同企画として,招待講演と話題提供,それらに続いて総合討論を実施した.
AIチャレンジ研究会(Challenge)
AIチャレンジ研究会では,合同研究会の中日である 2014/11/21 (金) に「ロボット聴覚」特集と題して研究会を開催した.ロボット聴覚のように,実環境音響信号を扱うことは,JST ImPACTのタフロボティクスチャレンジの中でも,極限音響プロジェクトが発足したように,近年注目を集めつつある分野である.発表件数10件(うち2件は,基調講演)を集め,Fully day の研究会となった.予稿集は,http://winnie.kuis.kyoto-u.ac.jp/SIG-Challenge/を参照されたい.基調講演には,実環境音響信号処理の新しい潮流である機械学習,分散マイクロホンアレイに関する最新の技術・動向に関する講演を,それぞれ東京大学の杉山将先生,NIIの小野順貴先生から頂いた.研究発表も含め,活発な質疑が行われ,最終的に60名を超える参加者を集めた.また,研究会内のイベントとして,会場内でマイクロホンアレイデバイスの企業展示(システムインフロンティア社)を行った.こちらも休み時間には人だかりができるなど盛況であった.
11月22日(土)
分子生物情報処理研究会(MBI)
SIG-MBIは,2014年11月22日(土)に,新学術領域「分子ロボティクス」アメーバ班との共催により,「アメーバ型分子ロボットの現状と課題」をテーマに最先端分子ロボティクス技術について議論した.分子ロボティクスは「感覚」,「知能」,「運動」の機能を備えた人工物を生体分子を用いてボトムアップに構築することを目指している.このような研究は世界的にも例がなく,まさに未知の領域を手探りで突き進んでいる段階である.
アメーバ型分子ロボットはコンパートメントをリポソームで実現し,その中に,微小管やアクチン鎖を動かす分子モータを封入することで「運動」を実現する.「感覚」や「知能」はDNAオリガミやDNA論理回路などに代表されるDNAナノ技術で実現する.分子ロボティクスはこれまでのコンピュータとは全く異なる概念で生命が持つ「知能」を再現する「人工知能研究」と言っても過言ではない.
22日の講演では,アメーバ班においてリポソーム,分子モータ,微小管,アクチン鎖を研究している専門家に集まって頂き,アメーバ型分子ロボット実現に向けた課題について議論した.分野横断的に20名強の参加があり,活発な意見交換が行われた.プログラムの詳細については,研究会のホームページ(http://www.sigmbi.jp/)を参照願いたい.
コモンセンス知識と情動研究会 (CKE)
CKE研究会では,「感情とコミュニケーション」をテーマに5件の一般発表と2件の招待講演を実施しました.計31名の参加者とバラエティに富んだ内容の発表があり,コミュニケーション,感情という観点から活発な議論が行われました.
住空間デザインに関する研究について建築学の立場と情報学の立場からの発表や,高齢者支援のための買い物行動のモデル化と応用,アスペルガー症候群の人に関する発話の分析,そして認知症ケア技法ユマニチュードに着目した認知症ケアスキル表現に関する発表がありました.招待講演の1件目には,精神科で看護師をしてきた立場から田中とも江氏にご発表いただき,身体拘束の現状と感情との関係について講演いただきました.また,2件目の招待講演では,脳科学と臨床医という立場から酒谷薫氏にご発表いただき,簡易型NIRSによる脳機能評価手法を活用した,ストレス計測や化粧セラピーの効果の計測など幅広い取り組みについて講演いただきました.
当日の発表の様子は,研究会の会員限定で映像を公開する予定です.当日会場にお越しいただけなかった皆さまにも改めてご意見をいただけると幸いです.研究会への登録,映像の視聴は研究会HP(http://sig-cke.jp/)より参照願います.
先進的学習科学と工学研究会 (ALST)
ALST研究会では2件の一般発表と5件のWIPPの発表が行われました.ALST研究会の一般発表では,参加者間での議論を重視するため,発表20分,質疑応答10分のように長い時間を割り当てています.今回の研究会においても一般発表は2件と多くはありませんでしたがそれぞれ10分の時間では足りないほど多くの質問がなされ,活発な議論が行われました.また,WIPPセッションでも,さまざまな領域からの学生が参加し,1時間絶えることのない20人ほどの参加者の列と活発な議論が繰り広げられました.