合同研究会2019開催報告
全体概要
人工知能学会には,現在第1種~第3種の計24の研究会が組織されている.これらの研究会は通常は独立に運営・活動しているが,2011年に相互の活性化を図るため,一堂に会して発表を行う場を設けることになり,それ以来,発表・聴講無料の「合同研究会」を毎年秋に開催してきた.昨今の人工知能ブームの影響もあり,ここ数年は参加者数が大幅に増加しており,当初会場だった慶應義塾大学の日吉キャンパス来往舎が手狭になったため,2年前から同大学矢上キャンパスに会場を移した.11月下旬の学園祭と重なる授業がない日を開催日とすることで,10ほどの教室を使って,研究会を並行して開催している.今年は11月22日(金)と23日(土,祝)の2日間になった.今回は過去最多となる17の研究会が参加した.
開催にあたって16社の企業様にスポンサーとしてご支援をいただいた.企業展示と広告掲載特典のあるゴールドスポンサー10社,広告掲載特典のシルバースポンサー4社にご支援いただき,このうち3社には茶菓を提供いただく冠スポンサーになっていただいた.また,今回から導入したランチョンセミナーのスポンサー2社にご支援いただいた.各スポンサー様に厚く御礼申し上げます.
企業展示
22,23日両日にわたって人工知能に関連するゴールドスポンサー企業の方々の展示ブースを設け,合同研究会参加者との交流を図っていただいた.
今回のゴールドスポンサー10社は,株式会社アイデミー様,株式会社HPCテック様,株式会社NTTデータ数理システム様,キオクシア株式会社様,クリスタルメソッド株式会社様,ソフトバンク株式会社様,日本GPUコンピューティングパートナーシップ様,富士ゼロックス株式会社様,株式会社FRONTEO様,ヤフー株式会社様であった.シルバースポンサー4社は株式会社クレスコ様,株式会社サン・フレア様,株式会社とめ研究所様,パナソニック株式会社様で,茶菓スポンサー3社は株式会社クレスコ様,株式会社サン・フレア様,パナソニック株式会社様であった.ランチョンセミナースポンサー2社は株式会社アイデミー様,クリスタルメソッド株式会社様であった.
ランチョンセミナー
今回から始めた企画としてスポンサーを募ってのランチョンセミナーを両日開催した.どちらの日も満席となる盛況となった.
共同企画
ここ数年は合同研究会の合同企画として,開催日の午後早い時間帯に招待講演を実施してきたが,今年の第1日目は従来通り招待講演,第2日目は特別企画として「AI ELSI賞表彰式および倫理委員会企画招待講演」となった.
第1日目の招待講演では,㈱ソニーコンピュータサイエンス研究所所長・北野宏明氏による「日本のAI戦略とムーンショット・プログラム:その意図,課題と今後の展開」と題した,人工知能研究はかつてのアポロ計画やロボカップのように大きな目標を設定して進めるべきというスケールの大きなご講演となり,300人収容の会場に入りきれない聴衆が入口に立ち続ける盛況となった.
第2日目の特別企画では,当学会倫理委員会によるAI ELSI賞表彰式が行われた.
IJCAI2020に向けた論文書き方セミナー
人工知能分野の著名な国際会議であるIJCAIが2020年7月に横浜で開催されるが,そこで多くの日本人が論文を発表する手助けとなるべく,当学会として論文の書き方セミナーを急遽合同研究会内で開催することとなった.セミナー告知の期間が短かったにもかかわらず,多くの参加者が集まった.
11月22日(金)
初日の11月22日(金)は,下の画像に示すように,SIG-AIMED,SIG-SKLとSIG-KSTの共同開催,SIG-Challenge,SIG-NAC, SIG-SWO, SIG-DOCMAS, SIG-AGI, SIG-WebSci, SIG-KBSの10研究会が開催された.以下は各研究会からの開催報告となる.
第8回医用人工知能研究会 (SIG-AIMED)
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第8回医用人工知能研究会は,医療情報学会医用知能情報学研究会と合同で開催されました.第20回日本医療情報学会学術大会が幕張メッセで同時期開催であったため,発表件数が大幅に減ることが懸念されましたが,昨年と同じ11件の応募を得ることができました.セッションは,9時50分から18時10分まで,休憩を挟んだ4セッションで構成されました.第一セッションでは,森武俊氏に「看護プロフェッショナルと共に働くAI」というタイトルで,本研究会では初めてとなる看護学に焦点をあてた招待講演をお願いしました.独居高齢者見守り技術,大規模病院のナースコールデータと看護記録・カルテの突合でのスクリーニングやインシデント予測技術,療養生活で問題になる褥瘡・スキンテアや糖尿病で問題になる潰瘍のケアでえられる画像(デジカメ,サーモ,エコー)の画像処理技術など,森氏のこれまでの研究開発が詳細に紹介されました.続く第二セッション,お昼休みを挟んでの第三,第四セッションでは,11件の一般発表が行われました.今回は,画像データの解析や診断に関する研究だけでなく,検査・検診・入院・診療行為などに関する医療データからの知識発見に関する研究が多く,これまで以上に幅広い内容となりました.質疑応答も活発になされ,盛況で幕を閉じました.
身体知研究会(SIG-SKL)と知識・技術・技能の伝承支援研究会(SIG-KST)の共同開催
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身体知研究会 (SIG-SKL) および知識・技術・技能の伝承支援研究会 (SIG-KST) は22日(金)に共同で開催され,6件の一般講演と1件の共同企画が行われました.
一般講演では,SIG-SKLから4件,武道における型の習熟支援について,パレード行進の分析について,野球のアンダースロー投球に関するVR実験について,美術教育におけるドローイング学習の評価指標について,それぞれ発表がありました.
また,SIG-KSTから2件,業務プロセスの指導・訓練方法のモデル化について,および製造現場のIoT活用に向けた模擬環境構築について,それぞれ発表がありました.
共同企画では,リクルートワークス研究所の入倉氏をお招きし,「今日的な技能継承とは」という題でパネルディスカッションを実施しました.その中で,リクルートワークス研究所発行の機関紙の記事を題材として,プロの技を次世代に継承することに関する現在の課題と企業が取り組む複数の事例について紹介し,参加者からの質問と意見に基づき議論しました.
以上のように,身体知および知識・技術・技能の伝承支援に関する多様な発表内容と企画で構成され,活発な議論が行われました.
第55回AIチャレンジ研究会 (SIG-Challenge)
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AIチャレンジ研究会は,人工知能におけるグランドチャレンジとして,RoboCupとロボット聴覚を中心的なテーマとして開催しています.ロボット聴覚がメインテーマとなる第55回研究会では,招待講演1件,基調講演1件,一般講演7件があり,当日は70名程の参加と盛況でした.午前の招待講演では,京都大学の香田啓貴先生から,霊長類の音声コミュニケーションの理解に対して音源定位技術がいかに貢献しうるかについてわかりやすくお話しいただきました.ご自身のフィールドワークの経験や,実験室においてマイクロフォンアレイで録音する試みなどもお話しいただきました.午後の基調講演では,東京大学の床爪佑司先生に,昨年のCVPR2018で採択され,今年のAI学会全国大会でも注目を浴びた,Between-class Learningについて,その手法と利点についてお話しいただきました.画像の混合比を学習させる手法のシンプルさと汎用性の高さや,画像から音声に応用するに至った経緯などが聴衆の興味を惹きました.一般講演では,定位や同期等の複数マイクロフォンアレイ情報の統合手法や鳥類生態観測への応用に加え,視聴覚情報を活用した動的3次元情報の再構成,リハビリでの感情識別,オーディオスポット形成など,関連する幅広いテーマの講演がありました.
ナチュラルコンピューティング研究会 (SIG-NAC)
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「モノ」による計算をテーマに,最新のテーマからエクストリームな挑戦的な取り組みまでバラエティに富んだ4件の招待講演と6件の一般講演があった.
招待講演としては,最近注目をあつめているリザバー計算について,東京大学大学院の田中剛平先生より「物理リザーバーコンピューティングの最新動向」としてリザバー計算系の導入から物理リザバー系のレビューがあった.日本IBMの片山泰尚様からは,波動計算についてこれまでの取り組みから,将来的には量子計算までを包括する枠組みについての紹介があった.分子計算については,東北大学大学院の川又生吹先生から,DNA分子計算のトレンドやパラダイムの紹介,そして今後の分子計算の発展について包括的な紹介が行われた.高千穂大学の大久保文哉先生からは化学反応系をベースにした理論計算系であるChemical Reaction Computingの紹介があり,最新の研究成果の紹介があった.
一般講演は名古屋大学大学院の鈴木泰博氏による,触覚・感性の記述言語「触譜」を用いたあたらしい触覚学についての紹介があり,ひきつづき同研究科の小村啓氏(大岡昌博先生との共同研究)から,触覚のゲシュタルト性について錯触の実験を基盤にした工学的展開の可能性が示された.また,お茶の水女子大学大学院のオベル加藤ナタナエル先生(同研究科,山﨑瑛梨佳氏との研究)から,Variational Autoencoderを用いた分子反応ネットワークの探索について,さまざまな計算機実験データをもとにその有用性が示された.同研究科の阪中祐子氏(オペル加藤ナタナエル先生との共同研究)からは人工免疫アルゴリズムの一種であるOpt-IAの改善にサロゲート手法を導入する方法と,その評価実験の成果が示された.東京大学大学院の萩谷昌己先生(同研究科,矢川晃氏との研究)からはゲルなどのマテリアルを用いるゲルオートマトンについて,外乱に対して安定的に動作する自己安定ゲルオートマトンの理論的な考察について概説がなされた.最後に,広島大学大学院の今井勝喜先生からセルラーオートマトンの概説と1次元2状態のnumber conservingセルラーオートマトンについての研究成果が報告された.今回の研究会のテーマである「モノ」による計算への関心は高く,特にリザバー計算の招待講演には立ち見が出るほど盛況であった.
セマンティックウェブとオントロジー研究会 (SIG-SWO)
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セマンティックウェブとオントロジー研究会は,2019年11月22日(金)に開催され,6件の研究発表,および2件の特別企画が行われました.
近年,セマンティックウェブ技術によって記述された知識をナレッジグラフと呼び,事業者や研究者による公開・利活用の事例が増加しています.今回の研究会では「ナレッジグラフの可能性」を特集テーマとして,ナレッジグラフの構築や利活用,推論までを含む多様な研究発表,および議論が行われました.
特別企画「第2回ナレッジグラフ推論チャレンジの紹介」では,企画委員である古崎教授(大阪電気通信大学),川村氏(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構)からコンテストの概要紹介がありました.AI技術を安全・安心に社会の中で活用していくためには,システムが正しく動作しているかの検証や品質保証のため,システムが判断に至った理由を説明できる(解釈可能性を有する)AI技術が求められます. SWO研究会では,人工知能技術による推論(推定)に関して,認識の共有と必要な 技術の開発・促進を図ることを目的としたコンテスト「ナレッジグラフ推論チャレンジ」(*1)を企画し,今年度が第2回目の開催となります.当日は,昨年度応募作品の紹介や今年度の応募規定などの紹介がありました.
もう1件の特別企画「ISWC2019参加報告」では,長野氏(株式会社東芝),谷藤氏(国立研究開発法人物質・材料研究機構),松田氏(株式会社日立製作所)から,最近のセマンティックウェブ研究の動向紹介があり,深層学習や埋込み表現を利用したナレッジグラフの構築・活用,産業界におけるデータ仮想統合やナレッジベース構築,および表形式データや統計表の構造化・ナレッジグラフ化について報告されました.
合同企画(招待講演)を挟んで1日の開催でしたが,100名近くの方に参加いただき,午前中は立ち見が出るほど盛況で,充実した発表と議論の場となりました.ご発表,ご参加いただきました皆様にお礼を申し上げると共に,今後も引き続き,本分野の活動へのご協力をお願い致します.
*1:https://challenge.knowledge-graph.jp/
第17回データ指向構造マイニングとシミュレーション研究会 (SIG-DOCMAS)
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第17回データ指向構成マイニングとシミュレーション研究会(SIG-DOCMAS)は,11月22日(金)に開催された.「知能化する社会のためのシミュレーション・データマイニング」および一般というテーマ設定に対して,5件の発表(招待講演1件,一般発表4件)が行われた.
一般講演は発表件数は少ないながらも,応用領域を異にする発表があり,シミュレーションによる戦略や仕組みの評価,大規模な社会データに基づく行動や意思決定の分析といったトピックに関する研究について,報告が行われた.特に,マルチエージェント交通シミュレーションを利用した動的な信号機制御方法や,AI便乗ODデータの分析についての研究は,研究成果の具体的な応用が想定されたもので,今後の実社会での展開が聴衆の興味を集め,活発な質疑が行われた.また,招待講演については,大西正輝氏(産業技術総合研究所)より「大規模な計測とシミュレーションの融合による安全な群集誘導の実現」と題して,災害時やイベント時などの人流に関するデータ分析,およびシミュレーションについてお話をいただいた.データ分析とシミュレーションを密接に連携させた研究開発活動は,本研究会のスコープによくマッチする事もあって,多くの参加者の興味を引くものであった.
発表者が大学からのみで企業からの発表数増加ができなかった事.発表件数が伸びなかった点は,次回以降の課題としたい.
第13回汎用人工知能研究会 (SIG-AGI)
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第13回目となる汎用人工知能(AGI)研究会は11月22日に慶應義塾大学矢上キャンパスにて実施されました.記録的な講演数(13本)に恵まれ,初の午前午後の開催となりました.参加者数は150人以上で,ピークとなった神戸大学名誉教授の松田卓也先生による招待講演時には立ち見の聴講者もおられました.
松田先生は「脳のマスターアルゴリズムを求めて」というタイトルで,汎用人工知能のキーテクノロジである,大脳新皮質に関わるマスターアルゴリズムの研究において,複数のアプローチが次第に似たような傾向に収束しつつあることを考えさせてくれました.
一般講演においても,一般的によくみられる「Low-hanging fruit」を目指した研究とは一線を画し,知能のコアやその役割をめぐる発表が多いのが特徴です.
自ら考案したマスターアルゴリズムを紹介する発表,意識や記憶を課題とする発表,社会的な問題や企業からのアプローチを紹介する発表などがあり,これらに対し参加者による活発な議論が行われました.具体的には例えば,定性的脳機能モデル(田和辻氏・早稲田大学),メンタルイメージ(横田氏・福岡工業大学),認知アーキテクチャによる内発的動機づけ(長島氏・静岡大学)などのテーマでの発表がありました.深層生成モデルの「意識の持つ機能」への応用(疋田氏・AGICRON研究所)や省メモリ推論のための深層ニューラルネットワークの圧縮手法の提案(岩崎氏・大阪大学)は最新の技術を新たな領域でも利用できることを見せ,聴講者の視界を広げることに貢献しました.またアラヤ社の金井氏による「汎用人工知能プラットフォームとしての人工意識」が話題になり,発表の後で活発な議論が廊下でまで繰り広げられました.
近年はNarrow AIの実装が進んだことで,その汎用性の不足が課題としてクローズアプされ,汎用知能を研究するスコープが改めて注目を集め始めています.本研究会においては,知識とは何か,思考と何か,意識とは何かなどの知能に関わる深い疑問に対して,学際的かつ,過去の手法と現在の手法の良い点や考えなおすような議論が行えました.これらを通じて,知能研究の新たなトレンドを生み出す研究会としての方向性を示せたと感じます.
第5回ウェブサイエンス研究会 (SIG-WebSci)
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人工知能学会合同研究会の一環として,2019年11月22日(金)に第5回ウェブサイエンス研究会が開催され,5件発表(招待講演1件,一般発表4件)が行われました.橋本康弘氏(会津大学)よる「アフォーダンスと計算社会科学」と題した招待講演では,「社会」「進化」「テクノロジー」をキーワードに,計算機によって拡張される新しい人工環境と人間との関りを,データ分析や数理モデリングから明らかにする新しい学問「計算社会生態学」の可能性が提示されました.その中で,社会や文化の進化を新しい文脈の発明に基づく人間の行動のレパートリーの多様化と位置付け,ソーシャルメディアなどの行動データの中にその萌芽を見出そうとする試みが紹介されました.発表中は聴講者も含め,アカデミアやビジネス等異なる立場からの意見交換がなされていました.ウェブサイエンス研究会は本合同研究会だけでなく,年2回オープンセミナーという形で研究者に限らず講演者を数名お招きし,聴講者も交えたディスカッションを行うような場をつくっています.今後も多くの研究者,エンジニア,学生の方々と議論を交えて行く予定です.
第118回知識ベースシステム研究会 (SIG-KBS)
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第118回知識ベースシステム研究会は,「知識表現・知識獲得とその応用」をテーマに,招待講演を含めて10件の発表が行われました.研究会は朝から開始しましたが大変盛況であり,会議全体を通じて90名程度の参加者がありました.
招待講演では,慶応義塾大学の山口高平先生に「PRINTEPS:エンドユーザによる統合AIロボット設計開発環境」というタイトルでご講演頂きました.開発者だけでなくエンドユーザもワークフローエディタやシナリオエディタなどの直感的なインタフェースを通じてAIロボットの設計開発に参加できるPRINTEPSに関して,大学祭でのロボット喫茶店,小学校の授業でのロボットによる質問応答などの多くの事例を交えてお話し頂きました.AIロボットの設計開発に関する知識や各種データ処理モジュールを異なる分野の多くの研究者とともに体系化されており,さらに様々な実環境での運用を通して社会への技術の還元と同時に今後の発展につながるノウハウを獲得されるなど,非常に実践的な取り組みを意欲的に進められていることが印象的でした.また,ご講演の中では,Explainable AIなど人工知能分野全体を通しての方向性に関するお話もあり大変興味深いものでした.
また一般講演では,深層学習の技術を利用したもの(グラフノードの分散表現学習,深層強化学習,画像認識)が多数ありました.さらに,グラフ構造からの拡張相関ルールの獲得,商品レビューの有用性ランキング,実サービスを対象としたステークホルダーにとっての価値要因の分析,時空間変化点検出,機械学習のメタ学習機構を実現するための知識表現法など,知識獲得・知識表現に関する様々な分野の発表がありました.いずれの研究発表も独自性・有用性の高い技術を提案するもので,具体的な問題を想定した取り組みも多くあり,そのような発表に対する会場からの質問・コメントも多く,充実した議論の場となりました.
11月23日(土,祝)
2日目の11月23日(土,祝)は,下の画像に示すように,SIG-CCI, SIG-MBI, SIG-ALST, SIG-CKE, SIG-SAI, SIG-AM, SIG-FPAIの7研究会が開催された.以下は,各研究会からの報告となる.
第6回市民共創知研究会 (SIG-CCI)
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第6回市民共創知研究会 (SIG-CCI) を11月23日に開催しました.午前中は,まず主査の白松が,市民とAI研究者の共創の場を提供するという本研究会の趣旨を紹介しました.今回は市民による講演は募らず,「シビックテック活動・オープンデータ活用の事例および一般」をテーマに,研究者・学生による4件の一般講演が行われました.各講演の後は,聴衆の反応投稿サービスsli.doを活用した質疑応答に加え,発表者を囲んだ対話の時間も設定し,自由かつ本質に踏み込んだ議論が展開されました.また,東京大学空間情報科学研究センターの瀬戸先生に招待講演をお願いし,市民協働投稿サービス「My City Report」や,オープンデータを活用した地域課題解決のコンテスト「アーバンデータチャレンジ」など,地域課題解決に向けた市民共創の事例についてご紹介頂きました.
午後は,「より幅広い地域の市民×研究者の共創をサポートするには?」というテーマで,Web議論システムD-Agreeと対面の議論を併用した議論実験を行いました.議論の中では,市民/研究者のそれぞれを対象とした「カスタマージャーニーマップ」の必要性や,これまでの研究会参加者を対象とした追跡調査の必要性が検討されました.
第69回分子生物情報研究会 (SIG-MBI)
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分子生物情報研究会 (SIG-MBI) は,2019 年 11 月 23日 (土) に「分子ロボティクスの医薬応用への現状と課題」と題し,分子ロボティクス調査研究会および分子ロボット倫理研究会の後援の下で研究会を開催しました.のべ31名の参加者のうち,大半の23名の参加者が一般非会員,約半分の16名が民間企業という中,分子ロボットの医薬応用に向けた関連技術に関して活発な議論が交わされました.
午前のセッションでは,1件の発表取り止めがありましたが,分子ロボティクス技術に関して1件の招待講演と2件の一般講演を行いました.はじめに,主査の小長谷明彦(東工大)より,「分子ロボティクス:今後の展望と課題」と題して,分子ロボット研究のこれまでの流れと今後の応用分野ならびに倫理問題の重要性について紹介がありました.次に,日本の膵島移植の第一人者である琉球大学の野口洋文先生(写真)より,「糖尿病治療における移植・再生医療の現状と展望」と題して,膵島移植に関する日米の違い,iPS 細胞を用いた膵島細胞研究の現状報告に加え,分子ロボット技術を用いた分子膵島ロボットへの期待について招待講演を頂きました.引き続き,岐阜大学の池田将より「分子ロボット創製に向けた超分子ナノ構造体型部品の多成分化」と題して,条件に応じて溶けたり固まったりする新材料の講演がありました.
午後のセッションでは,東北大学の川又 生吹より,「筒状DNAオリガミ構造によるリポソーム内外の分子拡散にむけて」,神戸大学の梅田民樹より「リポソーム凝集体の形状と力学的性質の解析」と題する講演があり,リポソームにおける物質の入出力ならびに崩壊の条件について議論しました.また,東工大の我妻竜三, Arif Pramudwiatmoko, Gregry Gutmannより, それぞれ 「DNAオリガミと水クラスターの相互作用」,”“Creating Biomolecular 3D Object Mechanics with Spring and Particles with Virtual Reality Simulation”, “Creating a Comfortable Networked VR Experience to Enable Larger Interactive Simulations”と題して,分子ロボットの設計に有用なシミュレーション技術に関する講演を頂きました.
先進的学習科学と工学研究会 (SIG-ALST)
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ALST研究会では,2件の一般発表と6件のWIPP(Work-in-Progress Poster)発表が行われました.一般発表では,学生と教員の2名の先進的かつ挑戦的で,本研究会にふさわしい研究発表が行われました.本研究会では,発表時間20分に対し質疑応答の時間を10分間設け,活発かつ深い議論が行われるよう配慮しています.質疑応答の時間だけでなく,休憩時間等に入ってからも参加者同士で意見交換する様子や,各研究の面白さについて活発に討論している様子が見られました.
WIPPショートイントロダクションセッションでは,WIPPセッションにおける発表者が,自身の研究を端的に興味深く紹介されました.続くWIPPセッションでは,学生や若手研究者の方々の発展途上ではあるものの,優れた着眼点で進められている研究がポスター形式で発表され,将来有望な研究として会場から高く評価されました.また,1件あたり1時間の発表時間が設けられており,今後の発展のための良いヒントとなる多くの質問やコメントを得ることができ,発表者の方々にとっても大変有益な時間となったようです.参加者は50名でしたが,セッション時間が終了してもなお質疑が継続されるなど,非常に活発な議論が繰り広げられました.
その後の,専門委員会では各研究の講評が行われ,いずれも優れた研究であることを確認するとともに,各研究者の視点からどのように優れているかを含め熱心な議論が行われました.
第14回コモンセンス知識と情動研究会 (SIG-CKE)
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本研究会は2006年に発足し,自然知能(コモンセンス)のモデル化に基づく人工知能研究の深化発展を狙い,社会課題解決に役立つAI研究を推進しています.今回の合同研究会では「物語理解に基づくコミュニケーション支援」をテーマに,医学,子ども学,看護学,作業療法学をはじめとする多彩な分野からの話題提供に基づき,物語理解を柱とした活発な議論が行われました.
人工知能研究を長年牽引したP.H. Winston教授(2019年7月に逝去)は,物語理解は人間理解の最高峰であると述べていました.第14回研究会では,その思想を継承し,さまざまな文脈の中で語られる物語を人間理解のきっかけとして捉え,どのように人工知能研究に展開させていくのかを多角的に議論しました.前半は,総合内科医による医療現場で起こる絶え間ない決断と自己変容の物語の紹介と,医療情報学の視点でエビデンスとナラティブをintegrationすることの重要性についての発表があり,立場の異なる二人の医師から,人工知能研究で得られた知識表現モデルが,医療現場における物語(ナラティブ)理解の深化に活用できる,と強い期待が寄せられました.
後半はさらにバラエティに富んだ発表があり,子どもは1歳の頃から物語を語っている,物語の捉え方には文化的な違いがあるなど,認知発達の視点から示唆に富む知見が提示されました.また,看護学や作業療法学の観点で,看護やリハビリを受ける本人の物語が具体的な事例で示され,それらを人工知能学的な視点でモデル化することが介入の高度化につながったという報告があり,物語理解研究を社会還元する視座も提供されました.最後には,内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期/ビッグデータ・AI を活用したサイバー空間基盤技術」の「“認知症の本人と家族の視点を重視する”マルチモーダルなヒューマン・インタラクション技術による自立共生支援AIの研究開発と社会実装」(http://jiritsu-kyosei.cihcd.jp/)とのコラボ企画で,ストーリーに関する研究の進展が,どの領域においても社会課題解決に貢献することのコンセンサスが得られました.
発表者・聴講者の皆さまには御礼申し上げるとともに,今後とも研究会活動への積極的な参画をお願いいたします.尚,研究会の模様は,登録会員限定で映像配信中です.http://sig-cke.jpより登録後,視聴いただけます.
第35回社会におけるAI研究会 (SIG-SAI)
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第35回社会におけるAI研究会は,「社会と興ずるAI」をテーマとし,招待講演1件,一般講演9件の計10件で実施されました.
招待講演では,「3Dリアルマップと位置情報によるAR体験を実現するプラットフォームAROWのご紹介と,AROWで活用されているAI技術について」というタイトルで櫻井理映子氏,地主龍一氏(ともに株式会社ドリコム)にご登壇いただきました.近頃大ヒット作のリリースが続くスマートフォン上の位置情報ゲームを念頭に,AR体験を支えるマップの生成にAI技術,特にDeep Learningがどのように利用されているか,試行錯誤の例を交えながら紹介がありました.利用されている技術はもちろんのこと,一般の人工知能系の学術講演では見られないような綺麗なグラフィクスの数々は参加者の心を掴むものでした.
一般講演では,電力需要や人狼ゲーム,金融取引,イベント空間内の回遊,交通現象を対象としてユーザの行動をモデル化するものが報告されました.また動的アンケート生成や論文・特許情報のクラスタリングに取り組む研究も報告されました.一方で,ユーザに紐づいたデータの利活用に関するプライバシー保護について問題提起もなされました.
雨の土曜という開催日にもかかわらず,90名近くの方にご参加いただきました.「社会におけるAI」に合致した発表とそれに続く議論がなされ,今回も有意義な会となりました.
第23回インタラクティブ情報アクセスと可視化マイニング研究会 (SIG-AM)
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第23回インタラクティブ情報アクセスと可視化マイニング研究会は,11月23日(土・祝)の午前午後で開催されました.午前午後に渡って,研究会の幅広い関心を反映して,情報推薦,情報抽出,配慮表現の考察,SNSの投稿指針,レビュー分析,データ分析支援,単語埋め込み,深層学習の解釈,情報検索支援,について,9件の一般発表があり,本研究会の核となるテーマについて,活発で意義のある質疑応答がかわされました.午前の休憩時間には,研究会独自の研究会奨励賞についての表彰も行われました.
午後後半には2件の招待講演が行われました.ヤフー株式会社の野本昌子氏による「SIGIR2019参加報告」では,最近の情報検索研究の動向が手際よく紹介され,情報検索の分野においても,深層学習が圧倒的になってきていることや,推薦に関する研究発表が多かったことなどが報告されました.また,Mantra,東京大学の石渡祥之佑氏による「マンガの自動翻訳に向けて」では,日本のマンガを外国語に翻訳する際の技術について紹介がなされ,現在の達成状況と,今後取り組むべき課題について,テキスト翻訳とは異なる部分の説明を含め,大変興味深いお話しを伺うことができました.
合同研究会企画を挟んで丸一日の長丁場でしたが,あいにくの天候にも関わらず,延べ77名の参加者を迎え,会場は大いに盛り上がり,充実した発表と討論の場となりました.
人工知能基本問題研究会 (SIG-FPAI)
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人工知能基本問題研究会(SIG-FPAI)は企画シンポジウムとして,「ベイズモデリングと心理学」と題したセッションを開催いたしました.このセッションは日本行動計量学会との共催です.行動計量学会は最も広い意味での人間の行動に関する計量的方法の開発と,その様々な分野への適用について研究することを旨とした会員の集う学会で,統計,計算機科学,心理,経済,マーケティングなど様々な領域から構成されています.この学会は研究活動の活性化をはかるため,研究部会を設け,活動経費の助成を行っていますが,今回は心理モデリング部会を招いての講演を行いました.
行動計量学と心理学,人工知能学会との関係についての簡単な挨拶があったあと,6件の研究発表がありました.内容は認知メカニズムに関するモデル,臨床心理学にも応用可能な学習心理学のモデル,社会心理学や教育心理学的観点からデータを解析するモデルなど心理学のバックグラウンドに根ざした統計モデルだけでなく,交通行動からは反応時間から注意力を計算するモデル,ウェブ閲覧者の行動データを予測・説明するモデル,さらに麻雀ゲームの解析から麻雀というゲームの特徴や構造を見出そうとするモデルなど,応用可能性の高いモデルも発表されました.
人工知能も元をたどればその源流の一部は認知心理学にたどり着きます.心理学では心というモデルを考えるために,研究方法や測定方法の統一化を図ってきた学問ですが,昨今は確率的プログラミング言語(StanやJAGS)の登場によってより自由にモデル的発想が出てきているようです.今回のセッションをきっかけに,心理学や行動計量学などと連携する可能性が広がることを期待しています.
まとめ
こうして合同研究会2019は,2日間で742名の参加者を迎え,この時期としては珍しく2日間とも冷たい雨が降るあいにくの天候にもかかわらず,大盛況で終了した.
来年の合同研究会2020は,本年度における経験を踏まえて,さらに盛り上げていくことを目指して参ります.ぜひ,皆様のご参加をお待ちしております.
謝辞
合同研究会2019実行委員の皆様には研究会ごとの報告の執筆にご協力いただいた.また,人工知能学会事務局の皆様および慶應義塾大学矢上キャンパス管財課の皆様には多大なるサポートをいただいた.ここに,紙面をお借りして感謝申し上げます.