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人工知能って何?「人工知能」とは何だと思うでしょうか?まるで人間のようにふるまう機械を想像するのではないでしょうか?これは正しいとも,間違っているともいえます.なぜなら,人工知能の研究には二つの立場があるからです.一つは,人間の知能そのものをもつ機械を作ろうとする立場,もう一つは,人間が知能を使ってすることを機械にさせようとする立場です(注1).そして,実際の研究のほとんどは後者の立場にたっています.ですので,人工知能の研究といっても,人間のような機械を作っているわけではありません. それでは,実際の研究ではどのようなことをしているのでしょうか?人工知能の研究には,人工知能研究で紹介しますようにいろいろな分野があります.ここでは,この中から「推論」と「学習」を取り上げます.
では,この推論と学習の具体例を順にごらんいただきましょう. 推論 − ゲームの対戦まず,推論の一例として,コンピュータが相手をするゲームの対戦について述べます. ここでは,多くの方がご存じの「オセロ」(注3)というゲームをする人工知能(注4)を取り扱います.このゲームのルールはを簡単にまとめると
では,人工知能の選手がどんなものか見てみましょう.この初心者レベルの人工知能はこれらのルールを知っているだけのものです.推論は「知識をもとに,新しい結果を得ること」と言いましたが,これらのルールが知識にあたります.また,盤上のコマの状態も,ここでは広くとらえて知識と考えます(注5). 人工知能は,これらの知識をいろいろ組み合わせて「相手のコマをたくさん挟めば,自分の勝ちである」といった新しい結果を導きます.このことを推論と呼びます. この結果に基づいて「相手のコマを多く挟める」青の矢印のところにコマをおきました. ところが,相手は自分の番のときに赤の矢印のところにコマを置きました.すると,人工知能はたくさんのコマをとられてしまいました.そこで,人工知能に「相手は次の自分の番のときに,たくさん挟める場所に置く」という知識を加えてあげます.すると,新しい知識も考慮して,人工知能は新たな結果「たくさん挟めるが,次の相手の番のときに,相手が少ししか挟めない場所にコマを置く」といった新しい結果を導くことができます. このように,手順を全部指示しなくても,知識のところをいろいろ変えることで,目標を達成するために必要な事柄を導き出せることが重要な点です. 1997年に,チェスの世界チャンピオンと対戦したコンピュータもさまざまな改良や工夫がありますが,基本的にはこのような枠組みで動いています.この推論は基本的な技術で,いろいろと応用されています.例えば,人工知能を搭載したロボットによるサッカー大会「RoboCup」のロボットなどは,試合の間,カメラを用いて周囲の状況を知識として取り込んでいます.また,どんな状況でどんなプレーをすべきかという知識もあります.これら知識を総合して「シュートする」といった新しい結果を導き出し,それに基づき行動しています. 学習 − 買い物の調査次に,学習の一例として,お客さんの買い物の内容を調査(注6)についてお話します. あるコンビニエンス・ストアーには人工知能搭載のレジが設置されています.このレジは,お客さんがどんな買い物をしていったかを記録することができます.では,一人目のお客さんの買い物が記録されるようすを見てみましょう.ちょっと変な取り合わせの買い物ですがパン,おにぎり,牛乳を一個ずつ買っていきました.学習は「情報から将来使えそうな知識を見つけること」といいましたが,このお客さんの買い物の内容がこの情報にあたります. 情報が手に入ったので,人工知能搭載レジは「将来使えそうな知識」を見つけようとしましたが,情報不足で見つけられませんでした.ですので,もう少し情報の収集に努めます.すると,二人目のお客さんがきました.このお客さんは牛乳と新聞を買っていきました. 同じように三人目のお客さんはお弁当とお茶,四人目のお客さんはパン,牛乳,ガムを買っていきました.四人目までのお客さんの買い物の内容をまとめると図のようになります.ここで,赤で囲ったパンと,青で囲った牛乳に注目してください.一人目と四人目のお客さんはパンを買っていますが,一緒に牛乳も買っています.このことから,
ということが分かります.これは将来使えそうなことがらです.例えば,パンと牛乳の売り場を近くに陳列しておくともっと牛乳が売れるかもしれません.というわけで,人工知能搭載レジは,お客さんの買い物という情報から将来使えそうな知識を見つけだしました.これが,人工知能の研究でいうところの学習です.また,ここに述べた例は単純なものですが,例えば,ネットショッピングで,あなたにお勧めの商品が提示されることがありますが,基本のしくみは同じです. 人工知能の学習はもちろんこれだけではありません.「情報」には,文字だったり,カメラでとった写真だったり,マイクで録った音だったりといろいろあります.一方,「将来使えそうな知識」にもいろいろな種類がたくさんあります.加えて,情報から将来使えそうな知識をどんな方法で見つけだすのか,また,情報や,将来使えそうな知識をどんなふうにコンピュータの中にしまっておけば良いのかなど,数多くの問題があり,多くの研究がなされています. 学習と推論は単独よりも,組み合わせて用いられることが多いです. 例えば,最近のカーナビゲーション・システムは声で操作できるようになっています.これを実現するために,まず,いろいろな人が話した声を録音してたくさん集めます.そして,これらの声を「情報」として,声とその話している内容の対応を「将来つかえそうな知識」として学習します. そして,この見つけた知識をカーナビにあらかじめ入れておき,さらにマイクによってカーナビへの話し声を取り込みます.そうすると,この学習した「知識」をもとに,推論の手法によって,話し声に対応する命令の内容(例えば“地図を拡大せよ”とか“経路を再検索せよ”)という「新たな結果」を導くことができるようになります.
以上,現在の人工知能技術について簡単に述べました.もっと詳しくお知りになりたいと思われた方には以下のような本があります.
このサイトの他のページも,人工知能についていろいろとまとめましたので,どうぞご覧ください. 注1:立場の違いをこのように定義してよいか,また,これらの立場は異なるのかということについても議論の余地があります. 注2:推論や学習にも厳密な意味や立場に違いがありますが,ごく簡単にいえばこういうことになります. 注3:「オセロ」という名前が一般に知られていますですが,登録商標であるため,リバーシ(Reversi)とも呼ばれます. 注4:このような盤とコマを使うゲームは人工知能研究の初期の段階からよく研究されたテーマでした.クロード・シャノンが50年代にすでにチェスの研究をしており,チェッカーというゲームでは,60年代はじめには,A.サミュエルがすでに人間のチャンピオンと勝負ができるほどプログラムを作成していました. 注5:知識はこのように人間が与える場合もありますが,人工知能が「学習」によって情報から見つけだすこともあります. 注6:これはデータマイニング技術のバスケット分析と呼ばれる技術で,R.Agrawal の Apriori アルゴリズムなどの手法が有名です. 注7:このような規則性のことを相関ルール (association rule) と呼びます.バスケット分析はこれを発見するための技術です. |
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