パブリック・オピニオン・チャンネル(Public Opinion Channel;POC)は、既存の通信や放送では実現することのできなかったコミュニティ支援を実現させるべく提案された、新しいタイプのコミュニティ・メディアである。
POCはAIによって支援されたインタラクティブ放送システムである。コミュニティ・メンバーはPOCシステムに対して意見を発信し、POCシステムはそれらの意見と関連情報を収集する。収集された情報は要約・編集され、それらを意味的に統合した自然な放送スクリプト「物語」が作成され、コミュニティに対して放送される。コミュニティ・メンバーは、それを聞いて、さらに意見の発信を行う。
研究の社会的意義は、以下の3点である。
- コミュニティを活性化させるメディアの実現
コミュニティ・メンバーの知識共有と、自由に意見を発信できる環境を支援すれば、コミュニティを活性化することができるのではないだろうか。これには既存の通信・放送やインターネット上のサービス(WWW, NetNews, BBS)などのメディアでは不充分であると考えられる。我々は、POCによって、その目的が達成できると考える。
- メディアリテラシーの支援
POCを用いると、誰でも簡単に自分の所属するコミュニティに対して意見を発信でき、またコミュニティ内の意見を知ることができる。このPOCの特徴は、メディアリテラシーとデジタルデモクラシーを支援する。
- コミュニティビジネスの創出
低コストなAIキャスターを用いることにより、容易で安価なパブリック・アクセス番組を作成できる。また、小規模なコミュニティを単位とした、的確なマーケティングや宣伝を行うことが可能になる。
POCで必要とされるAIは、現在の研究水準では実現不可能である。POCを叩き台の一つとした研究を行うことによって、AI研究は大きなブレークスルーを遂げることが期待できる。
従来の心理学的研究がモデル化に偏っていた反面、情報工学は設計に拠って立つべき理論の不在が指摘されていた。POCという共通の研究フィールドを介して、心理学による設計への寄与、心理学的モデルの人工知能による実現、システムの実効性評価、新しいメディアの社会への効果測定など、様々な新しい研究テーマが創出できると考えられる。
現在のところ我々は、以下の4つのトピックが主要な論点になると考えている。これらのトピックについて、あるいは他に考えられるトピックについて、人工知能研究者のみならず、認知心理学・社会心理学・言語学研究者を交えた広範な議論を望む。
- 自然言語(発話)の高精度な認識システム
最終的に、POCシステムは自然言語による情報収集を目指す。具体的には、音声(発話)や手書き文字(FAXなどの)による入力を可能にすることを考える。これらの技術の実現は非常な困難が予想されるが、情報工学と認知心理学にとって、非常にチャレンジングな課題であることは間違いないだろう。キーワード
- 音声認識(話者認識)
- 文字認識/図形認識・理解
- 自然言語処理
- 情報検索
- 音声対話システム
- 状況理解
- 人間にとって自然な入力device の開発(wearable computer,intelligent PDA)
- 大量・不均質情報集約メカニズムの実現
雑多な情報を自動的に要約する手法の開発は、認知心理学における文章理解研究の知見を設計段階で援用することが不可欠になるだろう。適切な情報要約技術の開発は情報工学にとってチャレンジングな課題であり、認知心理学にとっても重要な研究テーマとなるであろう。キーワード
- 自動要約
- 自動分類
- 情報抽出
- 情報検索
- 人のマルチメディア情報理解
- メディア理解
- 連続「物語」ストリーム構成メカニズムの実現
放送に耐えうる自然なスクリプトを連続的に生成するAIの開発は、情報工学にとって非常にチャレンジングな課題である。人間の日常的な発話行為に関する認知心理学や言語学の知見、社会心理学的手法による「自然さ」の評価など、各研究分野の共同による集中的な研究が必要である。キーワード
- 文章生成(知識構造)
- 人のマルチメディア情報理解
- 自動編集(テキスト,映像,音声)
- 自律的なsoftware actress/actor の実現(音声合成/感情表出)
- 音声合成/CG による自動番組作成(舞台,俳優,動作,効果音,照明)
- ユーザモデリング
- 談話理解
- コミュニティにおける情報ループバックの解明
POCによるコミュニティ内の情報の流れはAIによって管理されているため、視認が容易である。マスメディアへの積極的な反応の結果としての情報発信行動、少数者の多数派に対する影響の研究は、社会心理学的に非常に重要なトピックとなるだろう。その知見は、POCの設計あるいは改良段階において有用である。キーワード
- 少数派影響
- 世論形成
- マーケティング・リサーチ
- パブリック・オピニオンの可視化
- コミュニティでの知識共有
- メディア行動