アトムの生活とこころ
菅野 重樹
アトムの魅力が,未来の様子をみごとに,そしてまた未来の社会問題を的確に描いていることだという指摘は多くあります.確かにそのとおりですが,それよりも著者は,アトムのテーマが悪人退治や戦闘という内容だけではなかったことに大きな魅力があったと思っています.アトムでは,人間とロボット(機械)の違いとは何か,ロボットに権利はあるか,人間とロボットとはいかにして共生できるのか,といった極めて未来的な哲学をテーマとしています.
手塚治虫氏は医学を専門としていました.手塚氏の描く漫画には「火の鳥」をはじめとして,人間の生体,生命の誕生といった医学的な描写が極めて多くみられます.「鉄腕アトム」でも,人間自身のことや,人間と機械の関係を生命の視点で描きたかったのではないでしょうか?
本稿では,アトムにどんなことが描かれていたか,また,どのような問題提起がされていたかについて,ロボットの家と心に焦点をおいて,アトムと著者のロボット研究の接点を見いだしながら,述べます.
|