今年度の全国大会では昨年に引き続き,人工知能学会 学生PC委員による学生企画を実施いたします.
6月15日 (水) 9:00~10:40 E会場
テーマ
「第3次AIブームにおける『人工知能』の捉え方を見直す」
概要
今日,2006年に深層学習が提唱されてから15年以上が経ち,第3次AIブームの到来と呼ばれて久しくなりました.爆発的に向上したGPUによる並列計算性能を利用する人工知能研究の到来を経て,知能そのものを研究する時代になりつつあります.加えて,平成28年版情報通信白書にも述べられているように,人工知能技術の実用化における機能領域として,音声や画像の認識のような識別,数値の予測,自動化等が現在実用レベルに達し,生活や産業への人工知能の導入が始まっています.
一方で,世間一般の環境において一部の技術のみが人工知能として紹介される場合,人工知能といえば識別や予測などの技術のイメージが強くなることが考えられます.したがって,研究者と世間一般が認識する第3次人工知能ブームにおけるAI研究に乖離がある可能性があります.
2022年となった今日,我々学生企画学生メンバも含めたほとんどの学生は第3次人工知能ブーム前を体感していません.このような環境では,研究に取り組もうとしている学生の興味は世の中に流布する情報に左右され,人工知能というワードに興味を持った学生が「人工知能=識別・予測」というイメージに流されやすくなる可能性があると考えました.
そこで,今ブームの中で若手が立ち止まり,人工知能のとらえ方を見直すきっかけを本企画で作ることにいたしました.本学生企画セッションでは,学生のような若手に対し,識別・予測としての人工知能以外の研究についての講演を聞く機会,つまり,「人工知能」というワードを振り返り再考する機会の提供を目的としたいと考えております.
本セッションでは第3次AIブーム中に研究者になられた方,第3次AIブーム前に研究者になられた方の講演を予定しています.お二人の世代間の違いなども明らかにすることで企画テーマに合うセッションを実現したいと考えています.また参加者の皆さまからのご質疑・ご意見を反映させられる形式で議論を進行したいと考えております.
講演者
岡 瑞起 氏
(筑波大学 システム情報系)
人工生命(Artificial Life)は、生命を人工的に再現することで、「生命とは何か」を探求する分野です。人工知能が「人工的につくられた人間のような知能」であるとすると、人工生命とは「人工的につくられた生物のような生命」のことを指します。本講演では、人工生命のこれまでの研究を概観しながら、人工生命分野のグランドチャレンジである「オープンエンドな進化(Open-ended evolution)」について説明し、その最新動向や人工知能との関連について解説します。本講演では、人工生命の面白さや可能性、そして何より「使える」技術であることが分かってもらえると思います。
大澤 正彦 氏
(日本大学文理学部 次世代社会研究センター)
私の夢はドラえもんをつくることであり、ドラえもんをつくるために研究者になった。特に幼い頃からドラえもんの心やのび太との関係性に魅了されてきた私にとって、人工知能という言葉はドラえもんをつくることと常に共にある。
ただ「ご専門は?」と聞かれると相手の顔色を伺いながら答えざるをえない。世間の大多数にとって、第三次AIブームの主役となった人工知能の中身などは知ったことではない。この場合「専門は人工知能です」と答える。ドラえもんをつくりたい研究者の専門が人工知能とあらば、すぐに納得してもらえる。問題は中身を知っている人々だ。とくにビジネスシーンでは「人工知能はデータ解析ツールなので」と言われることがよくあり「専門は人工知能です」と伝えると誤解を招く。そこで私は「専門はHuman-Agent InteractionやBiologically Inspired Cognitive Architecture」などと答える。ただ、私の情熱は未来の人工知能にある。ドラえもんをつくる技術としての人工知能を専門としたい。その思いを表現するチャレンジとして、いざという時はやはり「専門は人工知能」と答える。人工知能という言葉の使い方には、研究者としての信念が宿っている様にも思う。当日はドラえもんと人工知能に込めた思いをお話ししたい。