特別セッション: 認知科学とAIの再会 ― 認知科学会とのコラボレーションセッション ― として3つの特別セッションを開催します.
S1 学習の科学と工学の協同 ―「組み立てることによる学習」を題材として ― 講演プログラム
企画者:三輪和久
講演者:平嶋宗(広島大学),鈴木克明(熊本大学),三輪和久(名古屋大学)
学習は,認知科学と人工知能学の協同を考えるにあたって,もっとも重要な探求と実践のフィールドを提供する。その協同とは,学ぶ過程を分析し,そのメカニズムを理解しようとする努力と,学ぶための環境を構成し,種々のメディアを用いて学習を促進しようとする努力という2つの努力が,他方に対する敬意に基づいて一つに出会うことである。認知科学は,実験と実践の両面において,学習の理解に関わる多くの実証的知見を積み重ねてきた。一方,人工知能技術を用いた学習支援研究は,学習を促進させるためのシステム設計に関わるいくつものデザイン原則を導き出している。両者が手を結べば,そこに学習に関わる新しい智慧がもたらされる。
そこで本セッションでは,近年,学習科学,教育工学の領域において活発な検討が重ねられているインストラクショナルデザイン研究における知見を踏まえつつ,「組み立てることによる学習」ということを題材に,主に認知科学会を中心に展開されてきた学習科学研究と,人工知能学会で展開されている学習支援研究を出会わせ,議論を重ねることで,両学会の協同による学習に関する科学と工学のらせん的深化の方向性を探る。
S2 知覚的シンボルシステムの実現に向けて ― 人間知能の構成論的理解 ― 講演プログラム
企画者:岡田浩之(玉川大学)
講演者(予定):松香敏彦(千葉大学),谷口忠大(立命館大学),浅田稔(大阪大学)
今から60年前、ダートマス会議から始まった人工知能研究の歴史は人間の認知過程の理解と構築がその大きな目的であり、認知科学研究にとってもそれは同じであった。抽象的で概念レベルの複雑な情報に意味を与える高次の知覚過程は人間の認知過程の重要な要素の一つであり、この高次の知覚過程により、漠然とした環境情報は心的表象へと組織化されていくと考えられる。
しかしこれまでの人工知能研究はこの高次の知覚過程を無視し、既成の表象を予め作ることで対処しようとし、人間の認知過程の理解という点ではことごとく失敗してきた(Hofstadter, 1992)。同様に認知科学研究においても、当初は知覚的な認識論が主流であったが、人工知能や計算科学、脳科学などの影響により、認識論の主流は非身体的、非知覚的なものとなり、知覚的な認識論の立場は失われていった(Barsalou,1999)。
しかし多様な媒体の処理がある程度できるようになってきた現在,それらの限界を超えた議論が可能になったと考えられる.そこで本セッションでは、非知覚的な認識論が抱える問題にとらわれることなく、複雑で外乱に富んだ実世界から得られる情報に関して、十分に機能的な概念形成システムを目指した知覚的シンボルシステムの実現に向けた学際的な議論を行う。
S3 人間の知性と機械の知性の接点:認知科学と人工知能のReunionへ向けて 講演プログラム
企画者:鈴木宏昭(青学大),大森隆司(玉川大)
講演者:開一夫(東大),橋田浩一(東大),鈴木宏昭(青学大)
ディスカッサント:堀浩一(東大),山川宏(Dwango)
1970年代に情報という概念の普及により知性への新たなアプローチが可能になり,この流れの中で認知科学,人工知能という二卵性の双子が生まれた.知識とその表現,利用という共通のテーマの下で両者は緊密な連携の下に研究を展開した.その後,ニューラルネット,第5世代という大きな展開を経て,残念ながらこの連携は徐々に弱まってきたように思われる.
しかしながら両者の分離と展開には共通する2つの要因が関係している.1つは生物指向という要因であり,脳の構造,身体,運動など取り込み,知性の新しい姿を描き出すことを促した.この指向は認知科学においては,認知神経科学,身体性認知科学,進化心理学との連携を促し,人工知能においてはニューラルネット,GA, GP, バイオコンピューティング,ロボティクスの発展につながった.もう1つは関係・社会指向である.これは個体の知性を論じるのではなく,他者,社会,人工物との相互関係の中で知性を捉え直そうという動きである.この指向は,認知科学においては共同認知,状況論,インタフェース研究を生み出し,人工知能においてはネットワークから得られるビッグデータを利用するための統計的学習理論の発展,ナレッジ・マネージメント, 人口市場,サービス工学など社会への展開などである.
このオーガナイズドセッションでは,まず生物指向,関係・社会指向を代表する認知科学者が人間,社会の研究の意義と今後の展開,そして人工知能との関連についての報告を行う.その上でこれからの探究すべき知性の姿のスケッチを提示し,参加者とのディスカッションを行う.