6月8日 (木) 15:30~17:10 H会場(中会議室B1)
テーマ
「人は人工知能に何を求めるのか」
概要
1956年のダートマス会議以降3度の人工知能ブームを経て,私たちの日常生活で「人工知能」を冠するロボットやサービス,あるいはニュースを目にする機会が増加しました.第3次人工知能ブームのきっかけは,2012年に「Googleの猫」の画像認識が話題になったことが大きいと考えられています.その後の発展は目覚ましく,2014年には寿司チェーン店に接客用ロボット「Pepper」が採用され,Amazonが音声アシスタント「Alexa」を開発し,2015年にはマイクロソフトが人とLINEで会話できる「りんな」を発表しました.2016年には,DeepMindの「AlphaGo」が世界トップの囲碁プロ棋士であるイ・セドルに勝利し,2017年にはペット型ロボット「aibo」が販売され,2021年には家族型ロボット「LOVOT」が登場しました.そして2022年はテキストから画像を生成する「Midjourney」や,自然かつ高度な対話が可能な「ChatGPT」が登場し話題になりました.
人が人工知能に求めることは,仕事のサポート,会話の相手,ゲームの対戦・協力相手,ペットとしての関係,創造性の発揮,疑問の解消など,さまざまです.しかし形式は違うものの,そのどれもが人とのインタラクションを必要としており,人と人工知能とのインタラクションの適切なデザインが求められています.求める人ごとに人工知能との望ましい関係が異なる場合,人工知能研究者はどのような人工知能を目指すべきでしょうか.人が人工知能に何を求めるのかは,時代によって変遷するのでしょうか.「Googleの猫」から10年が過ぎた2023年現在,私たちが人工知能に求めるものは変わったのでしょうか.
本セッションでは,異なるアプローチで人と人工知能とのインタラクションに従事されている2名の研究者の招待講演と,講演者2人による対談形式の議論を予定しています.それぞれの研究アプローチや,誰に求められる人工知能を目指しているのか,などの違いをもとに本テーマに関する深い議論を実現したいと考えています.また,参加者の皆さまからのご質疑・ご意見を反映させられる形式で議論を進行したいと考えています.
講演者
馬場 雪乃 氏
(東京大学大学院 総合文化研究科 准教授)
講演者は,人間と人工知能の協働による問題解決「ヒューマンコンピュテーション」の研究を行っている.人工知能システムの実現や,機械学習モデルの学習のために,多数の人間を活用する研究を進めてきた.その過程で,人間を部品として扱う技術ではなく,人間それぞれのウェルビーイングの実現のために,個人や集団の意思決定を支援する技術へと興味が変化した.本講演では,講演者のこれまでの研究を紹介するとともに,「誰のための人工知能技術であるべきか」について議論したい.
高橋 英之 氏
(大阪大学大学院 基礎工学研究科 特任准教授/株式会社国際電気通信基礎技術研究所 インタラクション技術バンク)
私の研究の興味は,人間に寄り添う愛を宿したロボットを創り出すことです.もし,このようなロボットを創り出し,インフラのように多くの人々の横に配ることができたら,孤独や不安に気持ちが押しつぶされることがなくなり,前向きに人生と向き合い続ける態度を育むことができるようになると信じています.一方,「愛」とは具体的に何なのでしょうか?どのような機能を備えさせたら,ロボットは「愛」を宿したと言えるのでしょうか?
自分は,工学系の研究室に所属しながら,以上のような哲学的な問いを考え続けてきました.このような正解のない問いを考え続けることは,一見すると浮世離れしている態度かもしれません.しかし「明確に分かる」ことだけを扱い続けるスタンスだけでは,どうしても創り出せない未来があるように感じます.人類が悠久の歴史の中で大切にしてきた「愛」のような概念を,ロボットに実装可能なレベルで科学することは,我々の社会に新たな未来を創り出すきっかけになるのではないか,そんなちょっと背伸びしたモチベーションに導かれて,自分はいつも研究をしています.
今回の講演では,上記のスタンスに基づき,自分がこれまで行ってきた,そしてこれから行っていきたいと思っている研究についてお話できたらと思います.